※太宰視点



"Lupin"と書かれた看板を潜ると、いつもの夜になる気がしていた。
幹部だとかマフィアだとかそんな柵は一切関係ない。
ここでならただの"太宰治"でいられる。
何となくそんな気がしていた。

店に入ると自分よりも先に織田作が酒を楽しんでいた。
軽く挨拶を交わしいつものように隣に腰かける。
マスターに洗剤を一杯頼むと一言「ありません」そう云われてしまった。
ないものを出せと駄々をこねても仕方がない。
ないのならしょうがないと、いつもの酒を頼んだ。

「そう云えば太宰、なまえにまた何かしたらしいな」
「大した事はしていないと思うのだけど」
「そうなのか?えらく怒っていたが」

組み敷いて啼かせた彼女はとても可愛らしく嗜虐心をそそられた。
酒が苦手ならば断わればいいのに。
自分は立場が下だからとわざわざ飲んだ挙句酔ってしまい私に連れて帰られる始末。
本当に莫迦だと笑ってしまう。
莫迦で臆病な癖に自殺しようとすると説教をしてくる。
放っておけばいいのに止めようとしてくる。
普段の私ならば煩わしいと処罰してしまったかも知れない。
けれど何故か彼女に自殺を邪魔されても厭な気はしなかった。
寧ろまた自殺をすれば止めてくれるのかと期待している。
私だけに目を向け、私の事だけを思い、私の為だけに行動する彼女。
実に愉快だ。
どうせなら一生私の事以外考えられなくしてやるのもまた一興だ。
けれど彼女はそれを望んではいないだろう。
私が気になるから止めるのではなく、自殺と云う行為が許せないから彼女は止めるのだ。
私自身も別に彼女が好きだとか気に入っているとか、そう云う事ではない。
これは単なる興味だ。
彼女が何を思いながら自殺を止めるのか。
そして生きていればいい事があると云ったその言葉の真意を確かめたい。
彼女にとっての"いい事"とは一体何なのかを。
私にもその"いい事"が見つけられるのかを知りたい。
彼女ならその答えを教えてくれるのかも知れないと。
そう期待しているのだ。

「ねえ織田作、私にも生きる理由が見つけられるだろうか」
「それはお前次第だろう」
「ポートマフィアに入れば何かが変わるかも知れないと思った。生きる意味が見つかるかも知れないと期待した。けれど実際は答えなんて何処にもなかったよ」

人を殺める度に自分の中にある何かが少しずつ失われていく気がした。
けれどそれはいつの間にか何も分からなくなっていた。
若しかしたらもう全て失ってしまったのかも知れない。
私はその何かを取り戻す事ができるだろうか。
彼女ならその何かを取り戻してくれるだろうか。
買い被り過ぎなのかも知れないが、マフィアに向いていない彼女になら、私にはないものを持っている彼女になら。

彼女の事を考えていたらふと会いたくなってしまった。
以前織田作が云っていた、彼女といると自分がマフィアだと云う事を忘れてしまうと。
実際に会ってその通りだと思った。
自分の周りには悪い人間しかいない。
血も涙もないそう云った人間しか寄ってこない。
けれど彼女は違う、自分の意志で自分の正しいと思った事をする。
暴力を貨幣とするマフィアにおいて、命を貴ぶ。
それが正しさなのだろう。
私はその正しさから嫌われている。
ただ目の前の敵をなぎ倒し、価値のあるものだけを奪い取る。
そう云う生き方をしてきた。
そしてこれからもそうやって生きて行くのだろう。
しかし彼女は違った。
そこに価値があるとか利益があるとか、そんな事は考えていない。
助けたいから止めるのだと、自分に何の利がなくともそれでも救うのだと。
全くとんでもないお人よしで、そしてとんでもない能天気な莫迦だ。
だけどそんな彼女だからこそ魅力を感じるのかも知れない。
私と相反する存在だからこそ。

「太宰はあいつの事が気になるのか?」
「如何だろうね。でもまあ興味はあるよ。ポートマフィアに置いて命を尊いと思いそれを重んじる。実に面白い考え方だよ。だから…」

もっと彼女を知りたい。
あの綺麗な瞳に私しか映らなくなればいい。
そんな欲望が腹の底でぐるぐると回っている。
如何すれば彼女は私に興味を示してくれるだろうか。
本当の私を知った時にそれでも彼女は私を救おうとしてくれるだろうか。
これ程までに興味がわいた人間は初めてだ。

「私はまだなまえに"いい事"を教えてもらっていないのだよ。だからね織田作、私は―――」

私の考えを聞いた彼は目を丸くしていた。
きっとなまえは厭がるだろうと。
それでも構わない。
権力を振りかざしてでも必ず手に入れてみせる。
あんなにも楽しい玩具を私が手放すわけがないのだから。









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