太宰と云うとんでもない鬼畜野郎に弄ばれた私だが、幸いにも未だ処女である(処女と云う点に置いて幸いか如何かは別として)
最下級構成員である私と最年少幹部である太宰さんだ、私が望もうが望むまいが関わる事はもうなかった。
今日も平和に商店街で万引きをしたクソガキを織田作さんと懲らしめている。
上の人間と関わるとロクな事がないと痛感したあの日。
高そうなスーツを身に着けた人間には慎重に接するように心がけている。

さてさて万引きボーイを懲らしめたわけなのだが、万引き被害に遭った駄菓子屋のおばさんにお礼にとクレープの無料券を頂いた。
丁度二枚貰ったのだから帰りに食べに行こうと織田作さんを誘ったが甘いものはいいと断られ、泣く泣く一人でクレープを食べようかと思った時だった。
手元にはクレープの無料券が二枚、私は今ある人に借りがある。
頭に浮かんだ赤毛のあの人に何気なく電話を掛けてみた。
大したお返しにはならないが、それでも借りっぱなしと云うのも何だか心苦しいものがある。

「もしもし中原さん?みょうじです。あの、今からクレープを食べに行きませんか?」
『クレープだあ?』
「無料券を頂いたんです。二人で食べに行きましょう」
『…すぐ行く』

プツっと切れた電話の十分後くらいに中原さんは高そうな車でやって来た。
さすが準幹部なんて関心をしていると、乗れと云われその超がつく程高そうな車に恐る恐る乗り込んだ。
何も気にせず誘ったのだが、若しかして仕事中だったのだろうか。
私なんかよりも遥かに大変な仕事を熟しているだろう中原さんの事情も考えずに誘ってしまった。
来てくれたとは云え無神経過ぎたか。

「若しかしてお仕事中だったりとかしましたか…」
「別に、丁度仕事が片付いたとこだったし気にすんな」

何だこのイケメンは。
少女漫画のヒロインさながら胸がキュンと鳴った気がした。

クレープのお店までやって来ると中へと入る、しかし中原さんはクレープ屋が似合わない。
違和感がありまくりだ。
お店自体、やはり女性向けの内装なのでとてもファンシーだ。
そこにスーツを着た中原さんが立っている。
その異様な光景に思わず吹き出してしまった。

「手前、何笑ってんだよ」
「ごめんなさい、だって中原さんがクレープ屋に…似合わなくて…あはは」
「誘ったのは手前だろうが!!」

頬を両手で引っ張られ痛い痛いと涙が出たが、笑いは止まらない。
ちょっと赤面している中原さんがつい可愛くてなんだか虐めたくなった。
そう云えば太宰さんがあの時嗜虐心をそそられると云っていたが、何となくその気持ちが理解できるような気がする。
私は断じて虐められたいとは思っていないが。

謝りつつもクレープを手渡すと、不機嫌ながらも受け取ってくれた。
美味しいと評判がいいだけはある。
つい美味しくて夢中で頬張ってしまった。
中原さんに鼻を指さされ何事かと触ってみるとクリームがついたいたようで。
莫迦だと笑われてしまった。

「こっちにもついてんぞ」
「え、何処ですか?」
「だからここだって…」

口元に彼の指が軽く触れた。
ドキッとしてしまい途端顔が赤くなる。
中原さんも私の反応を見てか、頬を染めていた。
何とも形容し難い空気が二人の間を漂っている。
しかしとても気まずい。
他意はないんだ。
ただ私の口元にクリームがついていたから取ってくれただけで。
それ以外の目的なんてないって分かっているのに。
顔が熱くなるのが治まらない。

「見て見てあのカップルの彼氏かっこ良くない?」
「本当、超イケメンじゃん」

カップル!?
え、私達の事を云ってるの!?
今ただでさえ滅茶苦茶気まずいのに、そんな事云われたら更に気まずくなってしまう。
チラッと彼を見れば、先刻よりも顔が赤くなっていた。
お互いにクレープどころではなくなってしまい。
逃げるようにその場を後にした。

とんでもない目に遭ったと現在私達は人通りの少ない場所に避難している。
互いに微妙な距離を保ちながら。

「あの中原さん…すみませんでした…」
「何で手前が謝んだよ」
「私が誘わなかったら…あんな目に遭わずに済んだって云うか…その…」

何と云えばいいのか。
私からしてみればこんなイケメンとカップルに間違われて厭な気はしない。
けれど逆は違うだろう。
私の容姿はお世辞にも可愛いとは云えない。
至って平凡だ(と思う)
もっと私が美女ならば中原さんだって厭な思いはしなかった筈だ。
やっぱり誘うべきではなかった。
申し訳なさで一杯だ。

「みょうじは俺と恋人同士に間違われて厭だと思ったか」
「そんな滅相もない!!中原さんみたいな素晴らしい方と恋人だって思われてむしろご褒美と云いますか…とにかく厭だなんて思ってません」
「俺も…手前となら勘違いされてもいいって思ったよ」

思わず間の抜けたような声が出てしまった。
ついに莫迦さ加減が日本語を理解できなくなる程酷くなってしまったのか。
中原さんは今何て云った?
勘違いされてもいいと、そう云ったのか。
まさかそんな事。

「あの、もう一度云ってもらってもいいですか…」
「ば、莫迦か!!何でもねえよ!!」

おーい、と何度も声を掛けたが、足早に車まで歩く彼が一度もこちらを振り向く事はなかった。
恐らくあれは聞き間違いだったのだろう。
中原さんが私如きにそんな事を云う筈がないのだ。
何だか勘違いしてしまった私が恥ずかしい。
とにかく今日は酷い目に遭ったが、彼と食べたクレープがいつも以上に美味しく感じたのは気のせいではないだろう。









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