其の罪はカルマの宴に


※太宰視点、ポートマフィア時代



今日日(きょうび)少し厄介な敵組織を如何にして殲滅するかと云う任を首領より直々に賜っている。
奴らもポートマフィアをよく調べているらしく、攻めあぐねている。
実に厄介で面倒な奴らだと思わずため息をついてしまうくらいだ。
敵の機密情報を握っていると云う人物が今宵パーティに出席すると聞き潜入捜査に乗り出したのだった。

身元がバレないように(半ば無理矢理)中也に女装をさせ潜入した。
標的が姿を現し近づいたが、その姿が少女だった為に少し驚いてしまった。
何処から如何見ても無垢な少女にしか見えない。
彼女が果たして本当に機密情報を握っているのか。
まあもし何も知らなくても処分してしまえばいいだけの話だ。
中也に近づかせたが、意外にもあっさり誘拐に成功してしまった。
順調な滑り出しに罠かと疑ってしまうが、この私がそんなものに引っかかるわけがない。
手を煩わされずに事を運べるのに越したことはないと眠っている少女を本部ビルまで運んだ。

目を覚ました眠り姫は私を見た途端怯えだした。
無理もないだろう。
目を覚ませばそこには見知らぬ男が立っているなんて、常人ならば驚いて当然だ。
だがこれは仕事だ。
私も必要以上に優しくする気はない。
手短に済ませて敵を殲滅しなければいけないので、手段を選んではいられない。
拒むと云うのなら拷問をしてでも吐かせるまでだ。

「驚いているところ申し訳ないが、君に聞きたい事があってね。属している組織の情報を渡して欲しい。もし拒むと云うのならこちらもそれなりの対処をさせてもらう」
「あっ…やだ…」

酷く怯えているせいか、とうとう泣き出してしまった。
別段強い口調で云ったつもりはなかったのだが。
焦りが出てしまったのか。
これ以上煩わせると云うのなら致し方ないが別の手段を取らざるを得ない。

ここで私はふと思い出した。
そう云えば先刻部下から預かった資料に男性恐怖症だと記載してあった気がする。
そうか、それでこの怯えようか。
そんな事私には如何でもいい事だが、紳士としてはやはりきちんとした対応をすべきなのだろう。

「安心し給え。そんなに怯えなくとも何もしない」
「ひっ…」

手を握った瞬間、小さな少女の体がほんの少し跳ねた。
止めどなく溢れ出す涙に、震える体。
さて如何扱っていいものやら。
拷問は最終手段として置いておきたい。
それに私だってこれでも一応は人間だ。
慈悲と云うものも少なからず持っている、と思う。
これ程までに怯えている可憐な少女を拷問するのはやはり気が引ける。
困り果てている私に口を開いた彼女の涙はいつの間にか止まっていた。

「貴方の手は…温かいんですね…」

か細い手に少し力が入るのが分かった。
彼女の過去は少しだけ調べた。
今まで如何云う扱いを受け、如何やって生きてきたのか知っている。
敵組織に幼少の頃に拾われた彼女の扱いは、それは酷いものだった。
道具として扱われ、毎日慰みものにされていた。
何がそうさせているのか。
普段の私ならば同情などする筈がないのに。
その経緯に同情している私がいた。
全く可笑しな話だ。

「そう云われたのは初めてだ。君の手は随分と冷たいのだね」
「…何となく分かるんです…貴方の言葉に嘘はないって…」

ゆっくりと可愛らしい唇から紡がれる言葉達。
それまで震えていた筈の体は今は穏やかになっていた。
如何やら少しは信頼してもらえたらしい。
彼女の異能力は触れた者の心を読む、と云うものなのだがそんなもの私に効果があるわけがない。
だが彼女は少しだけ笑ったように見えた。

「私の異能力は触れた者の異能力を無効化するのだけど、如何してそんな事が分かるのか。全く君は不思議な人だ」
「目を見れば分かるんです…その人が嘘をついているか如何かが」
「目?」
「貴方の目は…凄く綺麗」

これには拍子抜けだった。
まさかそんな事を云われるなんて。
今まで大勢の人間を拷問にかけ殺してきた私の目を綺麗だと云うなんて、そんな事は初めてだった。
透き通った美しい瞳が真っ直ぐに私を映している。
何て綺麗なのだろうか。
私よりも遥かに美しい目をしている。
曇りのない眼(まなこ)。
吸い込まれてしまいそうだ。

「私なんかよりも君の瞳の方が美しい」
「私は…汚いんです…そんな事ない…」
「君の何処が汚いと云うのか、その言葉こそ嘘偽りだ」

輪郭をほんの少し撫でると彼女は驚いたように目を丸くした。
きっと過去の自分の扱いを思って汚いと云っているのだろうが。
私の目前にいる少女は紛れもなく美しい。
私が触れていいのかと戸惑ってしまう程に可憐だ。
もっと彼女が知りたい。
もっと彼女に触れたい。
これは彼女が持って生まれた魔性のようなものなのか。
惹きつけられて離れられない。

「君の事をもっと知りたいのだけど、教えてくれるかい?」

小さく頷いた彼女の桃色の唇に軽くキスを落とした私は。
怯えさせないように優しく、壊れ物を扱うように抱きしめた。
やはり男性が怖いのだろう、少し震えているが、その手は私の服を掴んでいる。
こんなにも怯えさせる元凶を壊してやりたい。
彼女が再び心から笑えるようにしてやりたい。
その為ならば私の中にある何を使っても構わない。

すっかり彼女の魔性に憑りつかれてしまった私は。
我ながら不甲斐ないと嘲笑しつつも彼女になら溺れてしまってもいいと心の何処かで思っていた。

「私は太宰。君の名は―――」






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