「さとーさん、重くて持てないのでお願いします」

「はいよ」


いつもの如く、種島の手伝いをしてやる。
手伝いと言っても高いところや重い物はてんで駄目だから、ほとんど俺がやるんだけど。


「高くて届かないので、お願いしますっ」

「はいはい」


俺の恋に口出ししないで、か……。
ふとさっき言われた言葉が頭を過(よぎ)る。
そういやあの時、相馬が今までとは違う空気をまとっていた気がする。
上手くは言えないが、なんか、こう……本当の気持ちを奥に仕舞い込んだような、暗いなにか。
なんであんな……、


パリンッ


「…………あ、」


考え事しながらガラスを棚へと戻していれば、手が滑ってそのまま床へと落ちて割れた。
さっきまで綺麗に並べられていた物が、バラバラに。


「さとーさん大丈夫!?」

「……あぁ、」


側にいた種島が上の空な俺の代わりにちりとりとほうきを取りに行った。
全て種島に任せるのはなんだろうとその場にしゃがみこみ、割れたガラスの破片を拾う。

その時何故か、相馬の心もいつかこんな風に壊れてしまうんじゃないかと思った。
なんでそんな風に思ったのかなんて俺が訊きたい。
でもあの時感じたあいつの空気は、そんなことまで考えさせるほどのものだったってことで。


「いてっ……」


今度はガラスで指先を切った。
なんだ、今日は厄日か?
そんな冗談を考えるが、笑えるワケもなくて。
指先からゆっくり溢れ出てくる血をただ見つめていた。

(今俺は、あいつに何が出来るのだろうか。)


「……佐藤くん?」


指先に向けていた視線を声のする方へと変える。
そうすれば自然とその声の主と目が合う。


「相馬……」

「こんなところで何してるの? って、佐藤くん、指!」


ゆっくりとこちらに歩いて来たと思えば、俺の指を見るや否や大声を出して駆け寄った。
どうやら心配してくれているらしい、俺を。


「血、出ちゃってる」

「……あぁ」


さっきのこともあってか、正直話し辛い。
言葉が喉につっかえているような、そんな気がした。


「……佐藤くん」

「……ん? あ、おい」


相馬は俺を呼ぶとそのまま腕を掴んで引っ張り、立ち上がらせる。
いきなりで驚いたが、咄嗟に踏ん張って倒れはしなかった。


「来て」


短く紡がれた言葉は、感情がなくて。
だが俺は何も言えず、ただ相馬に腕を引かれるままに休憩室へと向かった。


せっかく拾ったガラスは、俺の手から落ち―――また音をたてて割れた。



掴まれた指先は冷たくて
(それはこいつの心を)
(表しているようで)




椿のターン!
シリアス……になっているのだろうか。





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