すたすか | ナノ






「みょうじ」


わたしの名前を呼ぶ彼の甘い響きに心臓が締め付けられるようにきゅんとなる。名前を呼ぶなんてことは日常茶飯事なはずなのに、いつもこの時に彼が囁く言葉は何でもわたしにとって骨が砕けるような、全身から力が抜けてふにゃふにゃになってしまう甘い薬になってしまう。言葉だけじゃない、彼の息づかいもささいな動きも敏感に感じとって、私はますます火照ってしまうのだ。



「み、やじ、くん」



そもそもわたしはその行為自体を恥ずかしいとは思ってるけれど別に嫌じゃなくて、むしろもちろん好きか嫌いかで言ったら好きなのだけど宮地くんは私が思ってるより何倍も好き、らしい。それは付き合い出してからわかったことで、彼の普段を考えたら意外ともとれることなのだけど宮地くんのそういうところもわたしのまた惹かれたところでもある。でも如何せん回数が多いので恥ずかしいに越したことがない。そりゃあ何回も求められたらさすがにわたしの恥ずかしさゲージも満タンになるから断ろう、断ろうと思っているのにわたしが迷っている間の宮地くんは常に眉間にシワを寄せている真面目なところがさっぱり想像できないくらいに可愛い子犬のような、それでいて艶っぽい、男らしい、なんとも言い難い表情をするのでどうにも断れずに許してしまう。宮地くんは天然でやってるのかもしれないけれど、そんな顔をされたらわたしが口ごもってしまうって分かってるから、悔しい。そして許した時の彼の顔がとびきり優しく微笑んで、それにわたしはいつも骨抜きにされてしまうのだから更に悔しい。



「目を、閉じてくれ」



言われた通りに閉じるのもあれなので、目を開けておいてやろうかとも考えたことがあるけれどそれは一度も成功したことがない。それはわたしが5cmも無い彼との近い距離に耐えられなくて目をぎゅっと閉じてしまうからだ。閉じたあとの彼の表情は未だに見たことが無いけれど、視覚を失う代わりに宮地くんの息づかい、低い声、安心するにおいとかを五感全てで感じられる。その時にはもう自分の心臓の音なんて気にならないくらいに、宮地くんに集中させられてしまう。



「みょうじ……好きだ」



もうそろそろ来るかなと心に準備を張ろうとしたら急に耳元で囁かれるから不意討ちで、くらくらして、わたしはもう立てそうにない。いつもは口下手な癖にこういう時だけ積極的になるのだから、全くしょうがない。それでもやっぱりいつもこの瞬間は幸せで満たされて、好きあってるんだなあと感じられるから、わたしも宮地くんも心を1つになってるとわかる。きっとこれは口下手な宮地くんの愛の伝え方なんだ。だから、やっぱりわたしもこの行為は好きという結論に至って、つくづくわたしも甘いなあと思う。



「わたしも、好き」



ゆっくり近づいてくる宮地くんを感じながら、熱い温度を口付けで共有した。