すたすか | ナノ



「っ、ひっく、」



滲んだ視界から見ても外はどう見ても綺麗な夕空で、私の今の心模様とは似ても似つかない。もうすぐ夜になるという事を伝えるように月が朧げに出ているけれど、目から溢れ出す涙は止まることを知らずに私はここから、動けずにいた。



「…っ、あ」



携帯が青く光ってピピピ、と着信音が鳴っているのに気付いて、本当は今誰からの電話でも出たくないのだけど着信主が早く出てくれとでも言いたげに鳴り続けるのでとうとう耐えられなくなって私はその着信を取った。



「…なまえ?」
「す、っ、すず、や」


着信主は月子ちゃんの幼馴染みで、私の恋人の、錫也だった。



「…なまえ、大丈夫か?」



錫也はこちらの様子を探るように慎重な声色を出す。錫也は、多分疑ってる。さっき私が泣き声でそのまま電話に出てしまったから。
錫也に心配なんてかけさせたくないから、ごまかすようになるだけ泣くのを押さえて明るい声を無理やり作った。



「大丈夫だよ」
「……本当に?」



そう言ってくれる、錫也の声が電話越しでも十分いつもと変わらないくらいに優しくて、心臓がぎゅうっと縮まる。寂しくて、甘えたくなって、また押さえつけた涙が出そうになって、助けを求める気持ちを振り切るようにふるふると首を振った。これ以上はもう耐えられなくて私は早く電話を切ろうと早口で話すことにした。



「大丈夫だって」
「でも、」
「っ、ほんとに、大丈夫だから」



電話の向こうの主は黙ったままで、安心する。良かった。きっと信じてもらえた。少しの安堵に身を委ねて「じゃあね」と電話を切ろうとしたら、耳元から離した通話口から声が聞こえた。



「………ろ」
「え、なんて」
「大丈夫じゃないだろ」



どくん、と胸が音を立てる。その錫也の声がさっきと違って、とても切なそうな、けれど強い声色で言うから、体がびくっと震えた。



「え、」
「今から行くから。待ってて」



いよいよ私は堪えた涙がもう止まらなくなって熱い目頭を包むように私は顔を両手で覆った。つう、と頬に伝う粒を私は彼に拭ってほしいのだろう。そうだ、昔から錫也には隠し事なんてできない。どんな上手い嘘をついたって錫也はするりと抜けて、いつだって本当は来てほしい心の奥底にまで必ず辿り着いてくれるのだ。