すたすか | ナノ




羊くんが月子ちゃんのことを好きだ、なんてことはまるで羊くんの存在理由かのように当たり前のことだった。いつだって羊くんは月子ちゃんが好きで、月子ちゃんのことを一番に考えてる。そんな羊くんを見るのが好きで、幸せそうな羊くんが好き、だった。



「羊く、ん」



それがいつからだろう。寂しくて、辛くて、悲しくて。こんな感情を今もしかして羊くんは感じてるのかもしれない。ううん、きっとわたしよりもずっと、深いもの。そんなこと、教室でひとり夕日の映るオレンジの窓辺に黄昏ている羊くんの背中を見ていたら痛いくらいにわかってしまった。



「月子が、哉太と付き合ったみたい」
「そう、なんだ」
「あの二人どう見ても好きあってたからね。ほんっと、世話が焼けるなあ」



僕すごいキューピッドになったんだよ?、と笑いながら羊くんが話すから、つられてわたしも笑う。本当はきっと、笑い事なんかじゃない。だって今日は、いつも大好きな羊くんの笑い声に胸が締め付けられるんだよ。



「哉太はヘタレだしさあ」
「うん」
「哉太に、月子を任せるの不安だなあ…なんてね」



今こんなに上手に言えてる日本語も、きっと月子ちゃんの為に必死で勉強したんだろう。羊くんは月子ちゃんに会うために日本語を勉強して、日本に来て、彼女を幸せにするために来た。いつだって彼の中心は月子ちゃん一色だったんだろう。そして出来るなら、自分の手で月子ちゃんを幸せにって。優しい羊くんはそんなこと絶対に言わないけど。



「月子、幸せそうだった」
「うん」
「…僕は、月子にとって役目を果たせたのかな」
「きっと、そうだよ」



曖昧にしか言えなくて、羊くんを笑顔にしてあげたくてわたしは相変わらず鈍い痛みを胸に堪えながら微笑む。すると、なまえは優しいね、月子みたいだと羊くんが笑った時にわたしの胸は張り裂けそうに重くなった。いつだって彼の中心は彼女しかいない。わかっているはずなのに、ひどい人、と思わざるを得なかった。