「官兵衛さん!」 名を呼びながら官兵衛の肩に手を置く椿。官兵衛が首だけで振り向くと、椿の指が官兵衛の頬に添えられる。 「おおっ、意外と柔らかいのですね」 「何のつもりだ」 遠慮なしにむにむにと頬を弄る椿の手を振り払い、官兵衛は冷え切ったの視線を浴びせる。 椿はえへ、と笑った。 「ちょっとした戯れです」 付き合いきれぬと踵を返す官兵衛。 「ああーっ、待ってください!」 「なんだ」 今度は振り向かずに答える官兵衛の前に椿が回り込む。 「官兵衛さんに見てほしいものがあるのです」 「見てほしいもの?」 官兵衛が眉を顰めると、椿は力強く頷き、にっこりと笑った。 「いいですか? いきますよー」 えいっというかけ声と共に、椿は両手で己の頬を掴み、横に引っ張る。どうれすか、と問う姿はあまりにも間抜けだ。 官兵衛はそれを無表情で見下ろす。 「目も当てられぬな」 「とか言いながらばっちり見てたじゃないですか! ってちょっと官兵衛さん? 官兵衛さーん!」 立ち止まらずに去っていく官兵衛の後ろ姿を見つめ、椿はがっくりとうなだれた。 「ダメでした……」 「だから言ったじゃない。官兵衛殿を笑わせるなんて俺の神算でも難しいんだからさ」 「むー……。次はくすぐってみるとかどうでしょう」 「懲りないね、君も」 呆れる半兵衛の前で、椿は官兵衛を笑わせるために思考を巡らせるのだった。 ← |