突如として三成の前に現れた人影。

「トリックオアトリート!」

体を覆うほどの大きな白い布を被り顔を隠しているが、その声と独特な口調で変装にはなっていない。聞き慣れない横文字に、三成は顔をしかめる。


「とりっくあ……? なんのつもりだ椿」

「甘味をくれないと悪戯するぞー」

両手を上げて驚かすような動作をする椿を、三成は極めて冷静に一蹴する。

「意味がわからん」

「もー、もっと楽しい反応してくださいよ」

やれやれと肩をすくめて呆れながら、つまらなそうに布から顔を出す椿。もう一度「意味がわからん」と呟かれると、三成の前に指を突き立てた。

「だから、ハロウィンっていう行事ですよ。南蛮の。お菓子をあげるか悪戯されるかどちらか選べっていう」

「何故貴様の南蛮の行事に付き合わねばならんのだ」

「暇だからですよ決まってるじゃないですか」

微笑みと共に爽やかに言われた言葉に、三成はさもうざったいとでも言いたげに息を吐いた。


「俺は忙しい」

「それに楽しいじゃないですかー」

「話を聞け」


椿は布をひらひらと弄びながら、三成の周りをうろつく。

「ほらどうするんですか三成さん。甘味と悪戯どっちにするんですかほらほらほらほら」

「鬱陶しい黙れクズが」

「うわひっどい。もういいです後で三成さんに悪戯しますから」

「何故そうなる」

「だって何もくれないから。待っててくださいとびきりの悪戯用意するんで」

にやにやと妙な笑みを浮かべながら、片目を瞑ってみせる。三成はそれを鼻で笑った。

「馬鹿が考える悪戯などたかが知れている」

「うわあ酷いもういじけますよ泣いちゃいますよ」

「勝手に泣け」


棒読みでうわあんと泣いたふりをする椿を、三成が虫けらを見るような冷めた目で見下ろす。やがて椿は恨めしそうにちらりと三成を一瞥し、捨て台詞を吐きながら走り去った。

「三成さんのばーかはーげ」

まるで幼い子供のようなその態度。三成は心から呆れながらも、すでにいない椿の言葉にしっかりと反論しておいた。

「俺は禿げではない」


2011/10/07


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