「椿!」

半兵衛は椿の姿を見かけると、後ろから抱き付いた。


「わっ、半兵衛様!? どうなされたんですか?」


半兵衛はため息を吐きながら、慌てふためく椿の肩に腕を回す。

「もう俺、椿不足でくったくただよ。ちょっと付き合って……」


腕ごと抱きすくめられ、すぐ真横には半兵衛の顔。身動きすらとれない椿は、対処に困り持て余した。

「えっと、私不足とは一体……」

「さっきまで執務やらされてたの。もー三成に散々追われてさー」

ここ最近、半兵衛の怠け癖に苛立ちを募らせていたらしい三成。確かに、あの方は容赦がなさそうだ。椿は思わず苦笑した。

「それは……、お疲れ様です」

「で、俺今すっごく疲れてるわけ」


頭も体も休ませなきゃいけないんだよ。そう言って半兵衛は、顔を椿の肩に埋める。

……首筋に息がかかり、椿は肩を震わせた。意識しないように心の中で思えば思うほど、半兵衛と密着していることに意識が集中してしまう。


「こ、こんなことで、元気になるんですか」

やっとのことで絞り出した言葉に、半兵衛が顔を伏せたままくぐもった声で答えた。

「当たり前じゃん。俺の元気の源は椿なんだから」

「でも、その……後ろから抱きしめられますと、手持ち無沙汰で」


「前からの方が良いの?」

「はい、できれば」

せめて腕が動かせれば。
そんな軽い気持ちで口にした椿の返事に、半兵衛は一瞬言葉につまる。


「……それ、天然?」

「え?」

「椿って時々大胆発言するからなあ……」

呟きながら半兵衛は体を離し、椿を見やる。当の本人はやっと自由になった体に一安心し、ふう、なんて息を吐いていた。


「……恥ずかしがるのを期待してたのにー」

「ご、ごめんなさい……」

「まーいいけどね、それはそれで。じゃ、お言葉に甘えるとしますか」


にこにこと笑みを浮かべながら、椿の正面に回る半兵衛。失礼しまーす、なんておどけながら抱きしめる。


……この時、椿は自分の発言に後悔した。またも腕ごとしっかりと抱えられている。全く動けない上に、いざ正面から抱きしめられると、羞恥を感じずにはいられなかった。


「…………」

「……椿?」

「……すみません半兵衛様。恥ずかしい、です」


「えー、今更? だって椿が前から抱けって言ったんじゃん」

「そ、そうですけど……! 一旦離してもらえませんか?」

必死に請う椿に、半兵衛はニヤリと悪戯っぽく笑う。

「嫌だ、離してあげない」

「は、半兵衛様ー……!」


一層力を強められ、恥ずかしさのあまり涙目になる椿。それに耐えようとぎゅっと目を瞑るが、その顔は真っ赤だ。

半兵衛は、そんな椿の様子を期待していたわけで――結局、半兵衛が満足するまで、その腕が離されることはなかった。


2011/09/12


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