「椿、今日もいい問題を考えたよ」 「や、やっぱり今日もやるんですね」 城内のとある一室に、元就と椿がいた。 元就が歴史に関する出題をし、椿が答える。時折、元就はそれを遊戯として楽しんでいた。 ……もっとも、椿は得意ではないようだが。 「……今日はこうしようか。答えられたら、君にご褒美をあげよう」 しばし躊躇う椿に、元就が提案する。魅力的な言葉に椿は目を輝かせた。 「ご褒美ですか?」 「悪い話ではないと思うよ。どうだい?」 「……わかりました。元就様の挑戦、受けて立ちます!」 大袈裟に握り拳を作って意気込む主人公に、元就が悠然と笑う。 「若い子は元気でいいね。さて、始めようか」 今か今かと待ち設ける椿に、元就はゆったりと口を開いた。 「織田信長の家臣である、滝川一益は知っているかい?」 「はい、存じております」 「今回は一益の息子についての問題をだそうか。蟹江城合戦で敗れた後に追放された、長男の名前はわかるかな?」 「うっ……、えーっと……」 「ちなみに、一益の父は滝川一勝、または滝川資清と言われてるけど、この二人は同一人物という説もあるよ」 言葉に詰まる椿に、雑学を披露する元就。しかし、それは問題の手掛かりにはならない。 椿はさらに深く考え込む。 「わからないかな? なら、二択にしようか」 「あ、はい。それならなんとか」 「滝川一時か滝川一忠。このどちらかだよ」 安心したのも束の間、元就が述べた人名は、どちらも聞き覚えのないものだった。 全くわからないけど、二択なら二分の一の確率で当たるはず。そう考えた椿は、一か八か、直感で答えを選んだ。 「滝川一忠……ですか?」 自信なさげに元就の顔色を伺う椿。それに対して元就は感心したように大きく頷く。 「うん、正解!」 「本当ですか? 良かった……」 「よくできました。一益の長男の一忠は、父と共に蟹江城合戦に参戦したんだけど、徳川家康と織田信雄の連合軍に敗れたんだ。その責任として、秀吉に追放されてしまったんだよ。一時はその弟だね。……君には簡単すぎたかな」 「いえ、充分難しかったです」 「そうかい?」 嬉しそうに笑う元就。一安心した椿は、ふと思い出したことを元就に問う。 「元就様。先程仰られたご褒美、というのは……」 「ああ、そうだったね。実を言うと、何をあげようかまだ考えていないんだ」 「え?」 少し拍子抜けする椿に、元就は天井を見上げて考え込んだ。 「うーん、あいにく私も今は何も持ち合わせていなくてね。多少なら金子があるけど」 元就の手のひらで、じゃらりと音を立てる数枚の金貨。椿は慌てて手を振った。 「そんな、いただけません。ご褒美などなくとも私は……」 「駄目だよ、遊戯とはいえ約束だからね。……そうだ。椿、少しの間目を閉じてくれるかな」 「……? はい」 疑問を感じながらも、素直に従う。 ……すると、唇に暖かいものが触れたのがわかった。驚いて目を見開くと、間近に元就の顔。 「も、ももも元就様!?」 慌てて後ずさり、赤面する椿。それに対し、落ち着き払っている元就は静かに呟いた。 「……ああ、これじゃあ私にとってのご褒美になってしまうな」 ……いえ、これで充分です! そう言おうにも、声が出てこない。 ただ顔を真っ赤にして口をぱくつかせる椿の様子を、元就は笑顔で眺めていた。 2011/09/05 ← |