机に向かっていた三成の頭が、がくんと落ちる。
書類の山に顔を埋めて眠る三成に、手伝いをしていた椿は困ったように笑った。
随分疲れていた様子ではあったが、ついに限界がきたのだろうか。


三成はこのところ働き詰めだった。
だが、いくら気にかけても、頑なに休もうとしない。そんな主の居眠りを見て、椿の気は少し楽になった。

「……ゆっくり、お休みになられてください」

起こさないよう配慮しながら、薄い毛布をかける。


「ん…………」

わずかに肩を動かした三成に、椿は息を呑んだ。

……息苦しかったのか、顔を横に向け、また規則正しい寝息をたて始める三成。
覗き込んでみても、起きる気配はない。椿はほっと胸を撫で下ろした。


――眠っていても、三成様はとても綺麗だ。

薄く開いた唇に、すっと通った鼻筋、整った眉……伏せられた長い睫。
しばし魅入るうちに、無意識に三成の頬に触れようとしていた自分に気付き、動きを止める。

そして、椿の指は躊躇いがちに三成の髪へ伸ばされた。
すくえば、さらさらとこぼれ落ちる。それを何度か繰り返し、椿は緩やかに笑んだ。
徐々に三成の顔に近付いていく。

……その時、三成がかすかに身じろいだ。


「……っ私今、何をしようと……」

途端に我に返り、自分の行動に頬が赤く染まる。
走り出したくなる衝動を抑えて、おもむろに席を立つ椿。その腕を、三成が掴んだ。


「み、三成様?」

返事はない。瞼は閉じているし、寝息も聞こえる。
寝ぼけているのだろうか。


「椿……」


小さな声で名を呼ばれ、椿は目を丸くする。

「寝言……ですか、三成様?」

やはり、返事は返ってこない。……腕はしっかりと掴まれたままだ。
椿は頬を綻ばせ、黙って三成の隣に腰を下ろした。


2011/09/05


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