するり、と彼のふたつに結った髪の毛がほどかれる。 その少し外跳ね気味の肩くらいまである髪の毛は、結いあともつかずにさらさらと、元ある場所へ帰ってゆく。あぁ、なんて綺麗な髪の毛なんだろう。女の私よりも、綺麗でサラサラな彼の髪の毛。 「…なあ。」 「ん?」 「なんでそんなにジロジロ見てんの?」 「あ、えっと…」 「着替えづらいんだけど。」 「ご、ごめんなさい。」 私の視線は、どうやら彼にも気づかれていたらしい。目の前のユニフォーム姿の彼は、その首元を掴んでパタパタさせながらばつの悪そうな顔でこちらを見ていた。 練習の後で、少し汗ばんでいる彼はなんというか…少し色っぽい。…って、何を考えているのだろう、私は。 その考えと共に火照ってしまった体ごと、彼から反らす。すると、後ろから足音が聞こえて、さっきまで机ふたつ分ほど離れていた二人の距離が一気に縮まった。 すぐ後ろに感じる彼の体温にくらくらしてしまって、私はぎゅっと目を閉じた。 「なあ、なんでそんなにジロジロ見てたんだ?気になって気になって着替えられないだろ?」 身長差の関係で、自動的に耳元で囁かれる。 「は…あう…。」 あなたの髪の毛があまりに綺麗だったのでみとれてしまいました。…と言ったら彼はどういう反応をするだろう。否。今の私はそんなことを言えるような状況ではないのだが。 はぁ、と彼は小さくため息をつく。それから、それじゃ分かんないだろ。こっち向けよ。という声が聞こえて、肩を捕まれくるりと一回転させられる。 そのとたんに目に入る、彼の、どちらかといえば中性的な顔立ち。それと、少しつり目気味の、凛とした瞳。それに、いつもと違う見慣れない髪型のせいで余計に緊張する。 すっと顔が近づいてきて目と目が合えば最後。視線をそらすことなど出来なくなってしまった。 「ほら。言ってみろ。」 「え…あの…」 「言わないといつまでもこのままだぞ?」 「あ、うう…」 そんなに見つめられたら余計に言えないです。と内心思いつつ、心拍数ばかりが上がる一方で、このままじゃ本当に死んでしまうのではないかと思う。 「…あ、のね。」 「うん?」 「き、キミの髪の毛が…その…あんまりにも、き、綺麗だったから、つい…」 「…!」 意を決して正直に理由を言うと、彼はたいそう驚いたような顔をした。それから、ふ、と優しい笑みを浮かべ、なんだ。そんなことだったのか、と言いながら髪の毛を指に絡めてくるくると回す。 「ななっ…そ、そんなことって…!」 「はいはい。よく言えました。」 ちゅ、と小さく音をたてて、額に暖かくて柔らかい感覚。反論しようとしたのに、その場に氷のように固く固まってしまい、動けなかった。 「…ッ!??」 「ごほーび。」 彼のせいで一気に熱が集中した額を両手で押さえながら彼を見上げると、彼はやんちゃな笑顔を浮かべながら私から離れて、着替え作業を続け始めた。 ぼーっとしてくらくらする頭で、もうすでに制服に着替えて髪を結い直している彼をかすかに視線にとらえながら ああ、私は今日も彼にはまってゆくのだなあ、とはっきり思った。 分かってないよ、お前。 ―「キミの髪の毛サラサラしてるね」と言われたあの日から、面倒な髪の手入れとかしてるの、誰のためだと思ってんの?― ―――――― 長髪系男子好きです(私の場合二次元限定で) そしてこういう展開も好きです(体験ゼロですけど) ゆえに、ちゃんと感情表現できてるかなあと不安です お砂糖は控え目にしたつもりです←あんまりどばどば入れると書いてるこちらが恥ずかしいというか…これも書きながら心拍数上がったので←←← 全ては未体験だからですね(笑)私に春はいつくるのだろうか… ちなみに彼氏彼女の設定でした |