「…うそだ。」

下校を告げるチャイムが鳴り響き、周りにいた生徒達ががやがやと、お喋りをしながら、もしくは一人音楽をきいたりしながら教室を出ていく。

今はテスト期間で部活動はなく、ほんの数分のうちにほとんどの人がいなくなり、すっからかんになった教室に一人、取り残されてしまった。

念のため一応もう一度、鞄の中にそっと手を入れて確認してみた。筆箱やら教科書やらが手にあたるが、肝心のアレの感触だけがないのだ。

はぁ、と小さくため息をついて鞄を閉め、窓の外を見つめる。外はざあざあと音をたてて、大量の雨粒が地面に降り注いでいた。

下校していく生徒達の傘が点々と、真っ黒なアスファルトを様々な色に彩っていく。

「家につくころにはずぶ濡れだな、こりゃ。」

と呟いてはみたものの、そう言ったところでないもの…そう、傘は出てこない。

天気予報を見ないタイプの私だから、いつもはもしものときのために折り畳みの傘を常備しているのだが…よりによってなぜこんな時に忘れてしまったんだろう。

しかし、忘れてしまったものはいたしかたあるまい。傘に入れてくれそうな友達はもうみんな帰ってしまった。

「帰るかー…」

と気だるそうに呟いたら本当に気だるくなってしまって、重い足取りのまま、ゆっくりと教室を出た。


下駄箱で靴を履き替えて、ウォークマンに接続したイアホンを耳にはめて校舎を出る。そこでは相変わらずさきほどと変わらぬ勢いで雨が降り続いていて、それが私の気分をさらに気だるくさせた。

まぁこんなに短時間で天気が変わるわけないよな、と心の中で自分をあざけわらって、家に向かって歩き出した。

そのとたんに雨が私の体に容赦なく当たり、濡らしていった。12月上旬の寒さに上乗せして雨が私の体温を奪っていく。なんとも寒い。こんな時は早く家に帰るに限る。

気だるく歩いていたら余計寒くなると考えた私は、思い切り歩く速度を早くした。それと同時に、ウォークマンから流れる曲も、私のお気に入りのアップテンポなものに変わった。

その曲にあわせて歩いていたらなんだかテンションが少しずつ上がってきて、雨に打たれながら帰るのも悪くないかも、なんてポジティブな考えすら浮かんできた。こんな状況も、意外と楽しいかもしれない。


「…い!…おい!」

ふいに、後ろから誰かの叫び声が聞こえた。誰かを呼んでいるようなその声。誰に向かって言っているのか確かめるべく周りを見渡すが、私の周りには誰もいない。

なんだ空耳か、と思いまた前を向いたら、今度は私の耳に流れていたアップテンポな曲がぶちり、と切れた。

驚いて後ろを向くとそこには同じクラスの碓氷君が、片手に傘を、もう片方の手に私のイアホンの片方を持って立っていた。

「い、いきなり何するのよ…!?」

イアホンを外された驚きと、ずぶ濡れなところを見られた恥ずかしさで声が裏返ってしまった。そのせいでさらに恥ずかしくなって、顔の中心に血液が集まっていく。

「だってお前何回呼んでも気付かねえしさ。」

まったく…、そう言って碓氷君は呆れたようにため息をついた。

「ご、ごめん…。で、何?」

ポケットに手をつっこんでウォークマンから流れる音楽を止め、急かすように聞いた。わざわざイアホンまで外して引き留めたのだから、きっと何か重要な用事に違いない。

それにこれ以上止まっていたら凍え死んでしまう。一刻も早く家に帰りたかった。

「ああ、これ。ほら。」

「え…、」

「お前傘無いんだろ?俺の家近いから。すぐそこ。」

そう言って彼が差し出してきたのは自身が持っていた透明なビニール傘で。

「え、でもなんか悪いし…私は大丈夫だよ。」

「…あぁもうじれったいなあ!お前家遠いんだろ?さっさと受けとれって…!」

私が受けとるのを迷っていたら、彼は半ば強引に私の手にビニール傘と私の耳から外した片方のイアホンを押し付けて、私のすぐ横を走り去っていった。

「…あっ、ありがとう!」

どんどん小さくなっていく彼の後ろ姿に向かって、大きな声でそう叫んだ。降り注ぐ雨の中、私の声が彼に届いたかわからないけれど。


しばらくその場にたたずんだ後イアホンを耳にはめなおして、ウォークマンの電源を入れるとまた、さっきの曲の続きが流れ出す。

とたんになんだか嬉しくなって、ふふっと小さく笑った後、さっき受け取った傘をぎゅっと強く握りしめて、また家への道を元気よく歩き出した。













彼の透明なビニール傘が、
―真っ黒なコンクリートを彩った―






――――――

久しぶりにSSです。
本当は4日くらい前に完成していたのですが、タイトルが思い付かずアップが今日になりました(汗

書いたその日、雨の日に傘を忘れて傘をささずに帰ったらまるでお風呂上がりのようになってしまいましたorz…

こういうふうに、いろいろ想像するだけならいくらでもできるのに、現実はそううまくいかないものですね(苦笑

…てゆか思ったけど、傘もらった時点で既に濡れてる→もらった傘の意味(笑)

傘さしてるのに濡れてるみたいな不思議な状態の出来上がりですねw



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