鈍感は罪 | ナノ

鈍感は罪


「ねえ、臨也くん」


俺、折原臨也は一晩かけて仕事を片付け、次第に睡魔に教われ、心地好い眠気に意識を預けようと、ソファーに寝転がって寛いでいた。

そんなところに、俺と同じ声、同じ顔、色は真逆だが同じような服を着たサイケが―いつの間に居たのだろうか―俺が寝そべっているソファーの後ろ側から、ぴょこっと顔を覗かせた。


「なに、どうしたの?」


と、俺が訊ねると、サイケは迷いながらも少しずつ口を開いた。


「あのね…池袋に行きたいの」

「どうして?」


サイケの口から出て来た『池袋』という言葉に、少し嫌な予感がした。


「…静雄くんの家に行きたいの」

「え…?」


驚きの表情を見せながらも、内心では『やっぱり』と思った。
サイケはシズちゃん目当て…


「津軽に会いたいの!」


…ではなく、シズちゃんの家に居る、シズちゃんそっくりな…でも、彼よりもかなり怒りの沸点が高く、随分と人間らしい津軽に会いたいらしい。


「ああ、なるほどね…良いよ」

「ホントにっ?」


サイケは子供のように目を輝かせた。


「でも、俺が行くとシズちゃんが怒るから、サイケ一人で行ける?」


俺の言葉にサイケは疑問を感じたらしく、彼は可愛らしげに首を傾げた。


「なんで静雄くん怒るの?」

「シズちゃんは、俺のことが嫌いなんだよ、多分ね」

「そうなの?…臨也くんは、静雄くんのこと好き?」


突然の『好き?』という質問に戸惑った。
まさかサイケの口からそんなことを聞かれるなんて、思ってもみなかった。


「…さあ?どうだろうね…」

「ねえ、好き?」

「…」


はぐらかす俺に、サイケはなおも俺に問い続ける。


「否定しないってことは、無言の肯定って取っても良いんだよね?」

「…サイケ、ますます俺に似てきたよね」


いつの間にか、俺の人を理屈や言葉で追い詰めるやり方を、サイケは学んでしまっているらしい。


(全く、変なところだけ見習っているんだから…素直で可愛いところはそのままなのに。)


「ペットは飼い主に似るんだよ?」

「ペットで良いんだ…しかも、自分から言う?」


まあ…正確に言えば、サイケはペットではなく、アンドロイド―簡単に言えば、ロボットである。


「じゃあ、その“ペット”から見て、俺はシズちゃんのことを好きなように見える?」


俺はふざけたような口調で、サイケに尋ねた。


「うん、とっても」

「そっか…」


サイケの目から見ても、そんなふうに映るんだ。

俺がシズちゃんのことを好きなように…


だけど…


(本人だけは、気付いてくれないんだよねえ…)





END.



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