奪っちまった! | ナノ

奪っちまった!


信じられない光景が、今、俺の目の前に広がっていた。



――いつも午前の授業が終わると、校舎の中で最も開放的な場所である屋上にやってくる。

人もあんまり居ねーし。
まあ、俺らが来るから、人が寄り付かねーんだろうが…


登校途中にコンビニで買ってきたパンとパックジュースが入っているビニール袋を手に提げて、屋上への階段に足を進める。


屋上の扉が開いているのを目にし、もう誰か来ているんだと分かった。
何か声が聞こえたので、扉の隙間から誰が居るのかを確認しようとした。

そうしたら、そこには門田と俺の大嫌いなノミ蟲がいた…


そして、俺は見てしまったのだ。



「ん…っ」


あのノミ蟲野郎が門田の膝の上に跨って、門田にキスしてやがるのを…


その後二人は少し言葉を交わし、門田が顔を赤くして出ていった。

門田が入り口を通り過ぎようとしたとき、咄嗟に隠れようとしたが間に合わなかった。
だが、すれ違ったにもかかわらず、門田は気が付かなかったようだ。
それほど動揺していたんだろう。


チクリ…
何だか、胸の辺りが痛い。



「あ、シズちゃん来てたんだ…いつになく不機嫌そうで何よりだよ」


入り口付近で呆然としていた俺に気付き、嫌味ったらしい言葉を投げ掛けてくる。


「あ゙あ゙?」


何か知らねえけど胸が痛えし、ノミ蟲はうぜえし…

不機嫌をそのまま言葉にして吐き出した。


「もう、そんな怒んない怒んない。シズちゃんのそのすぐキレる癖、良くないよ?」

「うるせえ!黙れ」


臨也はいつものように悪態をつきながら、だんだんと近付いてくる。


「本当に今日はいつもより機嫌悪いよねえ…どうかしたのかな?あ、好きな子にフラれたとか?」


見当違いの推理に苛立ちを感じたが、やはりコイツは鋭いというか、目ざといというか…
そういう人の変化にすぐ気付くところは素直に凄いと思う。

確実に調子に乗るから、本人には絶対言わねーけど。


何かあったかと訊かれ、思い当たる節はさっき見た出来事しか見当たらない。


「……ろ」

「ん、何?」

「…手前の所為だろ」

「何で俺の所為なのかな?俺今日はまだ何もしてないはずなんだけどなあ…」


確かに俺自身には、何の害も無い。
いや、きっぱり無いとは言い切れないが…
何故かあの場面に遭遇してから、モヤモヤしやがる…!


「どうして黙ってるの?本当にシズちゃんらしくないね」


「別に…何でもねえよ」


妙に目ざといこのノミ蟲は、俺のいつもとは違う態度を見て、思い出したように言う。


「あ、もしかして…さっきの見てたの?」

「見てねえ」

「見たんでしょ?」

「見てねえっつってんだろ!」

「見てたんでしょ、俺がドタチンに…」


何故か「キスしてたところ」と、臨也の口から直接聞くのが嫌で…

胸がズキズキと痛んだ。

何でこんなに胸が痛えんだよ…
これじゃあ、まるで嫉妬してるみてえだ…

嫉妬?
何で俺が嫉妬なんてしなきゃなんねえんだあ!?


別にノミ蟲が門田を好きだったとしても、俺には関係ねえのに…!!

そう思った瞬間、俺はすぐ近くまで来ていた臨也の胸倉を掴んで、口付けていた。


何でそんな行動に出たか。
ただ単にイライラしてたからだ。

胸の痛みの理由はよく分からねえし、ノミ蟲はうぜえし!


ああ、もうどうにでもなれ!!



静雄は、臨也の唇を舌でなぞった後、臨也の口内へと侵入した。

臨也は喋っている途中だったので、口を開けていたため、簡単に静雄の舌の侵入を許してしまった。


突然のことに驚いた臨也は、しばらくは目を見開いて固まっていたが、口の中を天敵の俺の舌で蹂躙されていくのに堪えられなくなり抵抗を試み始めた。


「ん…っシズ…ちゃ…」

「うぜえ…黙ってろ」

「や、めっ…」


「はあ…っ」


どんっ!


臨也は抜けそうになる力を振り絞り、俺の胸板を強く押した。
そして、酸素が足りなくなっているのか、生理的なものなのか分からない涙が目から溢れ出している。


「な、に…なん、で…?」


俺は、さっきよりも胸が痛みだしたのに気付いた。

ムシャクシャする…


この空気に耐えられなくなったのか、臨也は階段を駈け降りていった。



(何やってんだ…俺)





TO BE CONTINUED.



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