丸井ver. | ナノ



今日、俺たちは負けた。

今日まで色んなことがあった。幸村くんが病気になって、俺たちはがむしゃらに練習して。
幸村くんが一番頑張った日に、俺たちは初めて負けた。それでも幸村くんはいつものように帰ってきてくれて、だから余計がむしゃらに練習した、のに。



「…な、んでっすか!!」


俺たちよりほんの少しだけ幼いあいつは、やっぱり一番に泣いた。何だよ、情けねえやつ。でも、正直俺だって泣きてえよ。
泣いたのはあいつだけだったけど、誰かが歯を鳴らす音が聞こえて、俺も拳を強く握った。


「あんなに頑張ったのに何でっすか!!先輩たちだって、俺が勝てねえのに、何であいつら、何で…!!」

「…泣くな、赤也」


ちゃんとした言葉にはなっていなかった。それでも、赤也が言いたいことは俺たち全員に分かる。だってそれはここにいるみんなが思っていることなんだ。

だれもがまた歯を食いしばっただろう中で、一番に赤也に声を掛けたのはジャッカルだった。






「泣くなよ、お前にはまだ来年があるだろ?」


ジャッカルは優しいから、必死に自分の思いを押し殺してる。大事な後輩の為に。そんぐらい俺にだって分かんだよ、無理しやがって。


「…何でそうやって大人ぶるんだよ!!」


ついに赤也がタメ口になった。感情が高ぶった時の赤也の癖。いつもの生意気さに、少しだけ口元が緩んだ。


「大人ぶってねぇよ」

「…じゃあ何で先輩たちは泣かないんすか!!」


そんなの、俺たちにだって分かんねぇよ。
それは言わなかったし言えなかった。俺たちは、泣けないんだ。目頭が熱くなると勝手に力が入っちまう。泣きたくない、泣いちゃダメだって。
考えるとまた全身に力が入って、俺はそれ以上何も言えなかった。



「アンタらだって泣けばいいだろ…アンタらのが、泣きたいんじゃねーのかよ…!」


ジャッカルの励ましも、柳の冷静な言葉も真田の鉄拳も受けることはなく、赤也は泣いていた。

柳生も、どんな目をしてるのか分かんないけどいつものようにハンカチを差し出すことはなかった。仁王はいつもみたいに何も言わないけど、珍しく真っ直ぐに赤也を見つめていた。
俺の横に居る幸村くんの表情は見えない。それでも確かに、ぎりりという音は聞こえた。


一緒に泣いて赤也を励ましてやればいい。

みんな同じ気持ちの筈なのに、誰も泣きじゃくる赤也にそれをしてやることはできずに、時が過ぎていく。






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