逃避行 | ナノ





逃げるように教室から出て、一定のリズムで歩いて職員室へ向かう。
ああ、怖かった。柳ファンだかテニス部ファンだかは知らないけど、とりあえずそういう人たちの視線を感じた瞬間に柳から離れた私を誉めてやりたいわ。
まあ、先生から呼ばれてたのは本当だし。微妙なところで話止めちゃって柳には悪い気がしないでもないけど、まあ恨むなら自分の人気さを恨んでほしい。


「藍川まなみです。砂川先生ー」


職員室のドアから担任を呼べば、優しい表情を浮かべた先生がプリントをひらひらさせて駆けてくる。いつも愛想の良いこの先生を見ては疲れないのかとたまに呆れるけど、この表情が私は嫌いじゃない。作り笑いでも少しは癒されるし、私みたいに無愛想なよりずっと良いしね。


「わざわざごめんね、進路のプリントなの。藍川さん先週休んだでしょう?」

「あ、はい。ありがとうございます」

「まだ受験は来年だけど、とりあえずこのまま進学か外部受験かだけでも。今のところでいいから」


あなたの成績ならいつだって切り替えられるわ。そう言ったせっかくの優しい笑顔に、柳との会話が思い出されて何とも微妙な気持ちになった。関係ないかもしれないけどこの先生は確か国語担当だったはずだ。
そんな(こちらとしては)微妙な心境で受け取った紙にはでかでかと進路希望調査の文字。


「来週の水曜日までにお願いね」

「はい、分かりましたー。失礼します」



進路、ねえ。それって私に未来があるってことですか。


…何ていうか、神様って残酷。






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