逃避行 | ナノ
「父親とうまくいってないの」
「嘘を吐くなと言ったはずだ」
バレたか。柳はどうやって私の嘘を見抜いてるんだろう。まあどうでもいいけど。
「つまんないんだよ、やりたいこともないし。生きてても意味ない。退屈」
「それだけで、か?」
「そう。あとさっきのも強ち嘘って訳じゃないから、私が死んでも誰も悲しまないし」
ああ、何か世界には生きたくても生きれない人がいるとか、そんなこと言われるのかなあ。だって柳そんな顔してる。それが面倒だからはぐらかすのに。
柳には一生分からないだろうね、つまらない日々がどれだけ辛いのか。いつからこうなったのかすら私にも分からないし。
「これでいい?じゃあもう構わないでね」
柳の横を通り過ぎて、ドアノブに手をかけた。
満足した?失望した?知るもんか、どうでもいい。ただ明日からまた一人自由に過ごせると思うとそれだけで私はかなりすっきりしたから、それでいい。
最後に舌打ちでも残してやろうかって、少しの優越感に浸っていたら左手首を掴まれた。はあ?
「何?まだ何かあるの?」
「明日も、俺はここに来る。聞いてくれるだけで構わない」
「は?」
「そんなに退屈ならば、少しでも時間を俺にくれないか」
どんな口説き文句だよ。本人は真顔だから、そんなつもりじゃないってことぐらい分かるけど。柳って意外と天然タラシっぽいな。
「追っかけてくんのやめるなら、好きにしなよ」
返事はしてやんないけど。これは言わなくても伝わってるだろう。
ストーカー紛いのことやめてくれるなら、別に私に被害はない。今度こそ満足そうな顔をした柳を尻目に、私はドアを開けた。