そこは御愛嬌。 | ナノ






次の日、教室移動の時に柳の教室の前を通りがかった。せっかくだし、例の大村さんが今どんな女子なのか見ていこうか。
とりあえず、と思って柳を探せば、柳は席に座って女子と話していた。うっわすごい優しい目してる。


「やなぎー」

「叶井か」


すまない、と謝りを入れて席を立った柳に今更ながら悪かったかと思ったけど、柳はあんまり気にしていない様子なので相手の人に会釈をするだけに留めた。


「どうした?」

「例の大村さんどんな子かなーと思って。どの子?」

「ああ、大村なら今話していた彼女だ」

「えっ」


柳が指したのはさっき会釈をした大人しそうな黒髪の女子だった。正直言って私の記憶とは全く違う。大村さんってあんなおしとやかな子だっただろうか。


「どうかしたか?」

「いや、美人だなって。そういえば今日は屋上来る?」

「ああ、ちょうど弦一郎にオーダーについて話すことがあるのでな。赤也も連れて行こう」

「そう。じゃあまた後でね」


私は足早に本来の目的である美術室へ向かった。端から見れば優しいはずであろう彼女の視線がこちらに向けられていたのが、やけに怖かった。何でかは分からない。テニス部のマネージャーってだけで女子から鋭い視線を向けられるのはしょっちゅうだから、もしかしたら錯覚してしまったのかもしれない。けれど、あれは…。
…できればこの先あの子とはあんま関わり合いたくないなあ。





 


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