そこは御愛嬌。 | ナノ
隣の席になった時、随分と暖かい人なんだなあと思った。他人のことは基本的に興味がなかった私でも目を引かれるような容姿、柔らかな物腰、そして何より彼の周りに集まる仲間たちが、春の日差しよりもきっと暖かいだろうと思った。
彼とはちょっとの会話しかしないような間柄で、私はその暖かな空間を端からただ見ているだけだったし、もちろんこれからもそうだと思っていた。端から見て目の保養にでもしていられれば、それで充分だった。
それが、彼の一言で変わることになる。
「叶井さんは、いつも一人なのかい?」
「…え?」
「…ごめん、不躾な質問をして」
「いや…基本的に一人だよ」
ある日突然、彼に話しかけられた。けれど正直、同情はやめてほしかった。私は別にいじめられて一人でいるわけじゃない。ちょっとしたことなら他の女子とも普通に会話をするし、特に向こうが嫌がってる様子も見たことはない。私が好んで一人でいるのだから。
それに何より、いつも仲間に囲まれている彼に同情されるのは良い気分じゃない。私の性格が歪んでるのは分かってるけどさ。
「叶井さん」
「ん?」
同情の言葉か、励ましの言葉か、掛けて来るのはその程度だと思っていた。けれど、
「俺と、友達になってもらえないかな?」
「…え」
「言っておくけど、俺は同情でこんなことを言ってる訳じゃない」
「じゃあ、」
「何でかって訊かれたら困るんだけど…俺、君と話してみたいんだ。もっとちゃんと」
何でか彼はやけに早口で必死そうにそう言って、控え目にこちらを見つめる。何をそんなに頑張ってるんだ。
いつもの余裕たっぷりな様子とは大違いな彼に思わず吹き出してしまって、その時の彼の面食らったような顔は今でも忘れていない。
「いいよ、そのくらいなら」
「…本当かい?」
「うん」
「なら、これからよろしくね。叶井さん」
「よろしくね、」
幸村くん。
そう呼んだ時幸村は嬉しそうに笑って、呼び捨てでいいともう一度笑った。
この日を境に、私は少しずつあの暖かな空間に足を踏み入れることになる。