▼ おまけ2

〆side辰巳

とある土曜の午後、部活を終えた俺は桜井や陣と連れ立って寮への道を辿っていた。
運動した後とはいえ日に日に風は冷たくなっていっているし、今も一応日が照っているのにひどく寒い。しかも俺は冷え性だから、子どもの時から防寒グッズが手放せなかった。
今もジャージの上に何枚も上着を羽織っているし、両側のポケットに突っ込んだ手でカイロを握りしめている。

昨日のテレビや何かの話をしている桜井と陣の会話を適当に聞き流しながら歩いていると、前方に非常にカラフルでチャラチャラしてキラキラした集団が見えた。
カラフルってのは茶だの金だのに染まった髪の色のことでチャラチャラってのは全体的な雰囲気のこと、キラキラってのは彼らが腕だの首だのにじゃらじゃらつけているアクセサリー類のことだ。
総じて軽そうでやかましそうな4人組はかつてなら眉を顰めて通り過ぎ決して関わり合いにならないような部類の男達だったけれども、今は普通に仲が良かった。

なぜならその中に、1ヶ月前に付き合いだした俺の可愛い恋人がいるからだ。

はたして俺に気づいたらしいそのうちの1人、貴史が「たっつみーん!」と手を振りながら駆け寄ってくる。満面の笑みで飛びついてきた貴史を受け止めると、その手には妙に芯の長い鉛筆とスケッチブックが握られていた。

「部活お疲れ! 俺も今部活してた!」
「へえ、何の絵?」
「もっちゃんとケーゴだよー。偶然会ったからポーズとってーって言ったらすげぇナルシストポーズとってさー。マジきもくてウケるから見る?」
「え、うん」

「俺らにも見せてー」と両脇から覗き込んでくる桜井と陣に「見て見てー」と笑いかけながら貴史がスケッチブックをめくる。俺以外に笑いかけなくていいのに、と心の中でむすっとしながら覗き込むと、初めて見る貴史の絵は目を疑うくらい上手かった。美術部だというのは知ってはいたが、「活動適当だよ」とか言うから本当に適当なのかと思っていたんだが。

「うわ! タカくん絵うまっ!」
「うわーマジだすげぇ! てか何このポーズ!」
「ありがと! ははっ、きめーっしょ!」
「きめぇっつーか、いやポーズだけ見れば普通に色っぽいわ。女の子で描いてよこれ」
「えーマジで? なーに陣ちゃん俺の絵をオカズにしちゃう系?」
「うそ、描けんの? するする」
「あ、俺もするわ。つうかマジかー人は見かけによらないねー。普通にちゃらんぽらんな子かと思ってたのに」
「あ、失礼だな桜井っち。俺もやるときゃやるのよー。……つーか辰巳何で黙ってんの?」

ふと気づくと、スケッチブックをめくりつつまじまじと見入っていた俺を貴史が不安げに見つめていた。しかし「あ、悪い。予想以上に上手いからびっくりして」と言うと、ぱっと顔を輝かせる。

「わーやった! 辰巳に誉められた!」
「良かったねータカくん、よしよし」
「…こら桜井、貴史に触んな」
「あー出たよ辰巳の独占欲。こいつ重くね? タカくん大丈夫?」
「えっ普通に嬉しいよ! エヘ」

ほわーんと笑った貴史に桜井と陣がつられてほわーんと笑って、ついでに貴史の頭を撫でた桜井にイラッとしていた俺まで和む。

貴史はそのチャラチャラした軽薄そうな外見から受けるイメージを裏切って、非常に素直だ。嘘はつけないというかものすごく下手だし、感情は全部顔に出るから、嬉しい時も悲しい時も怒った時も楽しい時もすぐに分かる。しかもいつも全力で「大好き!」とぶつかってきてくれるから、陣の言うように独占欲が強く、ついでにすぐ不安になる俺も不安になる暇がない。時々「いいこと思いついた!」だなんて突拍子もないことを言うこともあるが、そこもまた面白くて飽きない。

総じてバカ正直で素直な貴史の可愛さに、俺が1ヶ月前に驚くべき一目惚れをはたした時に「え、何であんな軽そうなやつ? 正気!?」だの「チャラ男っていうかむしろギャル男? 俺こえーよ」だのと言っていた桜井と陣もすっかり牙が抜けて、今や貴史を猫可愛がりしているのだった。
恋人と友人が仲良くなるのはいいことだが、その可愛がりたりっぷりやなんだか解せない。しかもいつの間にかタカくん呼び。しかしそんな俺の複雑な心中に気づかず、貴史は言うのだった。

「あ、つーかね俺辰巳描きたいんだよね」
「え、俺?」
「そう! あんね、俺とヨッシー遅刻が多すぎるってマッチョ先輩に怒られちゃってね、宿題出されちゃったんだよねー。もっちゃんとケーゴも面白いけどどうせならやっぱり辰巳描きたいしさ、ね、描いていい?」

…なるほど、やっぱり適当だったわけだな。

しかし絵のモデルを頼まれるなんて初めてだな、と呑気に考えていた俺は、貴史が何か企むような怪しげな笑顔を浮かべたことに全く気がついてはいなかった。




というわけで貴史を部屋に連れ帰った俺は、なぜか服を脱がされていた。

さて、ところで貴史の可愛さはバカ正直な素直さに留まらない。本当にタチだったのかというほど快感に弱い体も苛められるほど燃え上がる明らかなM気質も魅力だし、本人は気にしているようだがそんなんで今までどうやって男抱いてたんだって言うくらいすぐに達してしまうのも可愛くてしょうがない。
妙な闘いの末タチの座を獲得してからこっち、俺は貴史の体にもハマりっぱなしだった。

だから全裸にされた今、正直今すぐ押し倒したくてしょうがないわけだが、今はおそらくその時間ではない。どこかで見たようなポーズをとらされた俺の正面で、貴史はひどく真剣な顔で鉛筆を走らせていた。

「貴史」
「んー…なに…」
「…なんでヌードなんだ」
「うん…」

しかも真剣すぎて会話にまで気が回らないらしい。勃ってるところを描きたいと言われてしゃぶられた後放置された時はこいつもしや変態なんじゃ…と思ったものだったが、この様子を見ると多分変態じゃなくて芸術なんだろう。……多分。元ネタの銅像(でいいのか?)は勃起していなかったはずだし芸術への冒涜に思えなくもないけど、俺にはそもそも芸術方面のことはちっとも分からないし。

しかし遅刻の罰として出された宿題としてこれを描いてるってことは、例の部長にも見られるってことなんじゃないのか? 確かに皮さえ剥けば人前にさらして恥ずかしいイチモツではないが、いやしかし真面目にポーズをとっているくせに股間は勃起させている絵だなんてそれは一体どうなんだと思わなくもない。むしろ俺が変態に見えるんじゃないだろうか。

「あー! ちょっと何考えてんの辰巳! 萎えてきてる!」
「…あのな、貴史」

さすがにこの間抜けな状態で興奮を保てというのには無理がある。貴史以外のことを考えるのは微妙に罪悪感があるし、だがかといって貴史の痴態でも想像したら実際に襲いかねない。

しかしそう言い訳する前に、スケッチブックと鉛筆を置いた貴史がすっ飛んで来た。
「もーしょうがないなー」なんて言いながら俺の足下に跪いて、確かに萎えかけていたそれに舌を這わせだす。
凛の言った通り、そして最初の勝負の時に負けたと思いかけた通り、貴史のフェラは絶品だ。弱い先端部分を舌先についたピアスで撫でられる刺激はそれはもう堪らないとしか言いようがないし、それでなくとも何でこんなにと思うほどのテクニックを持っているのだ。しかも上目遣いで見上げられれば、俺の興奮はたちまち高まった。

「……なあ、貴史」
「ん? あ、元気になった! よーし続き描くぞー!」
「………」

しかし捕まえて押し倒そうと思った瞬間、貴史はするりと逃げ出してしまった。元の位置に戻り再び鉛筆を構えて俺に熱い、いや真剣な視線を注ぐ。
静かに心の涙を零した俺は、思った。

これはもしや悪趣味な放置プレイ…、普段の仕返し…いや、やっぱり変態なのか…?

「えー違うよ! 芸術だってば!」
「…今俺口に出してたか?」
「ううん、でもなんか分かった! やっぱ通じ合ってんだよ俺ら」
「……こんなところで?」


end.

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