▼ 01

映画をみる話


生徒会の仕事が長引いて、という理由でちょっとずつ先輩の帰りが遅くなってくるにつれ、先輩は時々なんとなく疲れたような顔をすることが多くなった。どうやらいくつかの行事の準備が同時進行で進んでいるらしく、夜にメールや電話であちこちと連絡を取り合う頻度も増えてきた。単純に働きすぎというか、高校生活の合間にするには仕事量が多すぎるような気もする。
とはいえ先輩は疲れた時に愚痴や弱音を吐いて発散するタイプではないらしく、どちらかというと全然違うことをしたい様子で、だから俺も特に仕事内容については触れず全く関係ない話をしたり、あるいは一緒に映画をみたりと気分転換に付き合うようにしていた。
その日もそうやって先輩が西園寺さんから借りてきた海外のアクション映画をだらだら見ていたのだったが、不意に先輩が途中で口を開いた。

「ちょっとくっついてもいい?」
「いいですよ」

珍しいなと思いながら腰を上げた。促されるままソファーに上がり、先輩の足の間に座ると、腹のあたりに両手が回ってくる。後ろから俺を抱きしめた先輩は、そのまま額を俺の肩のあたりに押しつけた。
手を伸ばして、ぽんぽんと頭を撫でる。話を振ろうかどうか迷ったけれど、先輩が何も言わなかったので結局何も言わずに待つことにした。
テレビに目を戻す。映画は中盤、主人公の回想シーンでちょっとしんみりした音楽が流れている。

ぼんやり話を追っているうち、ふと気がつくと先輩の手が何やら不穏な動きを始めていた。少し肌寒くなってきたので羽織っていたカーディガンのボタンを外され、合わせ目からTシャツとの間に指が滑り込んでくる。

「元哉さん?」

思わず声をかけると、先輩は手を止め、顔を上げないまま小さな声で囁いた。

「……ダメ?」
「いや、ダメではないんですけど」
「ちょっとだけ」

今日も明日も平日で普通に学校なので、何の準備もしていなかった。
ただ、ちょっとだけということは多分先輩も最後までは考えていないのだろう。
だとすれば特に問題はないので頷いて振り返ろうとしたところ、また囁かれた。

「そのままでいいよ。映画見てて」
「はい……」

首筋をくすぐる吐息がこそばゆい。頷いて、またテレビに目を戻す。
先輩はまた、俺をぎゅっと抱きしめた。





それから十数分後。
映画を見ていてと言われたものの、既にストーリーは全く分からなくなってしまっていた。
迫力のあるアクションシーンと盛り上がるBGMから多分一番の山場だろうとは思うが、完全にそれどころではなかった。
先輩の指がひたすら俺の乳首をいじりまわしているからだった。
といっても服を脱がされたわけでもなく、Tシャツの上から撫でられたりつままれたり擦られたりしているだけだったのだが、それが続けば俺の余裕を根こそぎ奪い取っていくには十分な刺激だった。

最初は気持ちいいけどこの程度ならまあ、という感じだったのが、そのうちこれはちょっとまずいかもしれないという感じになって、それから呼吸が乱れたり声を殺すのにいっぱいいっぱいになって、いまや体の力も抜けて背後の先輩にもたれかかってしまうような状況になっている。
手で口を塞いではいるものの、先輩の指に優しくつままれる度に変な声が出てしまって、はたして効果があるのかどうかは疑わしい。
派手な音楽が流れているとはいえ、これだけ密着していれば隠しきれるはずもないし、もちろん下半身の状態もお察しだった。

さすがにイくにはもどかしい、というか乳首だけでどうこうということは通常ないだろうとは思うが、だからこそ快感がどんどん蓄積されていくようで終わりがみえない。
どうにかしてほしくて振り返ろうとするが、先輩の腕と、いまや足でも体が拘束されてしまっていて、結局諦めての繰り返しだった。

その拘束が緩んだのは、結局エンドロールが流れ始めた頃だった。
ようやく手を離してくれた先輩は、俺の首をそっとくすぐった。
一番最初に同じような体勢で抱きしめられた時、がちがちに緊張する俺を笑わせようとしてくれた時と同じような手つきだったが、今の俺にはその刺激さえ強すぎた。
上がりそうな声を必死で抑えつつ振り返ると、先輩は優しい目で俺を見下ろしていた。

「大丈夫?」
「大丈夫じゃない……」

責めたつもりが、思ったよりも弱々しい声が出てしまった。
先輩は口元をほころばせ、体を入れ替えて俺をソファーに押し倒した。
スウェットと下着のゴムを引っ張られ、中をのぞきこまれる。

「あーすごいね」
「み、見ないでください……」

下着の中がどうなっているかは、自分で見なくても分かった。だいぶ前から、中の濡れた感触が気持ち悪かったからだった。
恥ずかしさに俯くと、先輩は俺の頭を撫で、Tシャツをめくりあげた。

「もうちょっと触っていい?」

慌てて首を振る。

「だ、だめ!」
「え、ダメなの?」
「ちょっともうこれ以上は……」
「でもまだ直接触ってないよ」
「いやもう本当に、……っ!」

いつものことながら返事を待ってはくれなかった先輩は、散々いじられた乳首に吸いついてきた。
舌を這わされ吸い上げられると、勝手に腰が跳ねた。Tシャツの上から撫でられるのとは全然違う刺激だった。
エンドロールと一緒に流れるしっとりした曲は、もう俺の声をごまかしてはくれなかった。

「っ、あ、あ……や、も、やだ……!」
「うん……」
「もう、あ、……っ、ちゃんと触って、おねがい、イかせてください……!」
「うーん……」

いや、うーんではなくて。と思うのだが、もう軽口をたたく余裕はなかった。
必死に肩を押すと先輩はようやく顔を上げ、そして俺を見て眉を下げ微笑んだ。

「かわいいな。ごめんね、いじめて」
「……も、いーから、早く……」
「うん。どっち触る? 前? 中?」
「ーーっ」

甘い声で囁かれ、背筋がぞくりとした。
本音を言えばその瞬間、中に入れてほしいと思ってしまったのだ。
が、前を触ってほしいと思う前に中に入れてほしくなってしまうのも男としてどうなんだろうと思ってしまって、いやそれはもう今さらな話ではあったが、どのみち何の準備もせずに来てしまったので選択肢は一つしかなかった。

結局苦渋の選択で前でいいですと答えたが、多分俺の葛藤は先輩にはバレバレだっただろうと思う。
先輩は口元をほころばせ、俺の下着ごとずり下げると手早く自分の服もくつろげた。

「一緒にしていい?」

取り出された先輩のものを見たら、もう待ちきれなくなった。先輩の首に両手を回して引き寄せる。
俺のはりつめたものに、先輩のかたくて暖かいものが添えられる。
まとめて握りこまれ、裏側を擦られ、たまらず先輩の首にしがみついた。

「ん……あっ……!」
「気持ちいい?」
「ん、きもちいい……」
「あー、俺も……」

先輩が小さくもらした吐息に胸の奥が甘くうずいた。
俺のせいで濡れたそこは滑りが良くて、先輩のものも汚してしまう。俺がどうなっているか全部バレてしまっているのが恥ずかしくて、でもそれがまたたまらなく気持ちいい。
それにしても俺の余裕のなさは異常だと思うのだが、それももはやどうでも良くなってしまった。

裏側は先輩のもので擦られて、先端を先輩の手で優しく撫でられて、それから一緒に扱きあげられたらやっぱり我慢なんかできずに限界がきてしまった。
ぎゅっと目を閉じて、先輩の肩を掴む手にも勝手に力が入る。
少し遅れて達したらしい先輩は、俺をもう片方の手で抱きしめたまま小さく息をついた。

「大丈夫?」

少しして顔を上げた先輩の顔はもういつも通りの余裕が戻っていて、でもやっぱり事後の色気があって、つい手を伸ばしてしまった。
一瞬目を丸くした先輩は、俺の手に頬をすり寄せ、嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとう。元気出た」
「そうですか……それは良かったです……」

答える俺の声はふわふわとした余韻のせいでどちらかというと元気を吸い取られてしまったかのようだったが、疲れた先輩が少しでも元気を取り戻してくれればもう言うことはなかった。

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