▼ 03
その日の夜、俺は先輩の膝枕で読書に勤しんでいた。
なぜこの体勢になったかというと、先輩が珍しく書類を持ち帰ってきたことに遡る。
仕事をするなら邪魔になるだろうからあまり長居せず帰った方がいいかなと思ったものの、先輩にここにいてほしいできればちょっとくっついててほしいと言われ、先輩の仕事の邪魔にならない体勢を探したところ最終的にここに落ち着いたというのが大体の経緯である。
というわけで先輩の膝枕で世界史の教科書を広げて明日の小テストの範囲をさらった後、一服をはさんで現在先輩に借りた文庫本に移ったのだったが、正直あまり集中はできていなかった。
例によって先輩オススメの謎の殺人事件シリーズを読んでいたのだったが別に内容の問題ではなく、この体勢自体が若干そわそわする上、時々思い出したように髪を撫でられたり軽いキスをされたりする度にさらにそわそわしてしまっていた。
もっと言うなら実は今日はちょっとそういうことをしたいなとも思っていたのだったが、もちろん仕事の邪魔はできないし、そもそも俺からそういう誘いをかけるのも未だ成功していないしで、どのみち今日は無理だろうなと思ってはいた。
だから
諦めてはいたものの、やっぱりくっついているとそわそわするしで結局集中できないままなんとなくページをめくることしばらく。
不意に先輩が身じろいだ時、ふと頭の辺りに違和感を感じた。思わず視線を上げると、目が合った先輩はどこか恥ずかしそうな顔で目をそらした。
「あー……ごめん」
「いや……」
本を閉じ、体を起こす。先輩は俺の視線を遮るように書類をそっと膝の上に乗せた。
が、今さら隠されたところでもう遅かった。俺はもう、さっきまでの密着した体勢で当たったものが何か分からないほど初心ではなかった。
書類を持ち帰ってこなければならないほど忙しい先輩の、ストレス解消なり癒しなりに多少でも役に立てればいいかなと思ってはいたが、こうなってみれば話は違った。
あんなにもどう誘えばいいかと悩んだのが嘘のように、俺の口はすんなり開いた。
「あの、触ってもいいですか?」
「それはもちろんいいけど、いいの?」
「というか、ちょっと口でさせてほしいというか……」
言いながら、やっぱり抵抗がないどころか自分からこんなことを言い出すなんて我ながらちょっとどうかしているのかもしれないと思ってしまった。完全にさっきの安田や慎二さんとの話を引きずってしまっていた。
口でしたいと言ったのは今日が初めてではないけれど、実際のところ先輩はどう思っているのだろう。嫌な顔をされたことはないけれど実は引かれていたりしたらどうしようと内心少し不安になる。
が、先輩はやっぱり嫌な顔をするどころか嬉しそうな顔をして俺を引き寄せた。キスをして、指先で耳をなぞり、そして囁いた。
「ちょっとでいいの?」
そういう雰囲気になった先輩の目に見つめられれば、嘘なんかつけるはずがなかった。
こっそり唾をのんだ俺は、そっと訂正した。
「……やっぱりいっぱいしたいです」
*
ソファーから降りて先輩の足元に跪くような格好になり、服を少し下ろしてもらった。
裏側に舌を這わせた時、それから喉の奥までくわえて吸い上げた時。先輩が気持ちよさそうにしてくれることに気がついた。新たな発見だった。
先輩が気持ちよさそうな顔をしてくれる度に嬉しくなって、俺の髪や首筋を先輩の手が時折撫でてくれる度にまた嬉しくなった。
男のものをくわえていると思うと確かに改めて不思議な気分にはなったが、やっぱり別に抵抗があるわけではなく、嬉しさや興奮の方が勝ってしまった。
途中で顎が疲れてしまったので、一度休憩がてら口を離した。手を添えながら顔を上げると、先輩は優しい目で俺を見下ろしていた。
頬をそっと撫でられ、それが気持ちよくて目を閉じる。
つるりとなめらかな先端にもう一度唇をつけ吸い上げると、ふ、と先輩が小さく吐息をもらした。
「なんかどんどん上手になるな……」
「大丈夫ですか? ちゃんと気持ちいい?」
「うん……俺もしていい?」
「今日はだめです」
「え、ダメなの?」
「もっと俺にさせてください。元哉さんは仕事してていいですよ」
「いやできないよ」
小さく笑った先輩は、今度は俺の顎を指先でくすぐった。そんな小さな刺激も敏感に拾ってしまって、逃げるようにもう一度口の中に迎え入れた。
硬いもので上顎を擦られると気持ちよくなってしまうのというのも、新たな発見だった。口の中も性感帯があるのだろうか。分からないけれど舐めながら自分でも気持ち良くなってしまって、つい息が上がってしまった。
ちらりと見上げると、先輩の熱い視線とぶつかった。どうしても興奮に勝てなくて、自分で触ってしまいたくなった。
でもさすがにちょっとはしたないというか見苦しいだろうか。悩みながら先輩を見上げると、不意に先輩は目を細め、足先でするりと俺の内腿のあたりを撫でた。
「やらしいなあ。俺の舐めながらこんなにしちゃうんだ」
「ふ、……っ」
思わず擦りつけたくなってしまったけれどすぐに足は引かれてしまった。代わりに先輩の手がそっと首の後ろに添えられた。
「やっぱり俺も触りたいな」
「ん……」
「それとも自分でする? 気持ちよくなってるとこ見せてよ」
「っ、……」
少し低くなったその声のトーンに、頭の奥がじんと痺れた。口を離そうとしたけれど、先輩の手にやさしく押さえられていたのでかなわなかった。一際大きくなった口内のものに舌を這わせながら、そっと自分の服の中に手を差しこんだ。
ためらう気持ちがないではなかった。恥ずかしいという気持ちもあった。でも、とっくに硬くなっていたものを握りこむと、全部吹き飛んでしまった。濡れた先端を指でなぞる。
「あー……かわいいな、めちゃくちゃかわいい……」
少し身を乗り出した先輩は、俺の首の後ろをやわらかくさすってくれた。そんなやさしい刺激にさえ、背筋がぞわぞわと震えた。
見られている、と思うと体がますます熱くなった気がした。
上顎のところ、それから時折喉の奥を刺激されると上擦った声が漏れてしまう。
「……ダメだ、ごめん、このまま出していい……?」
頷くと、そのまま後頭部を押さえられた。
口の中にじわりと液の味が広がる。
目を閉じ、喉の奥に放たれた液体を飲みながら自分の先端を親指でなぞる。
そのまま俺も、快感に身をゆだねてしまった。
「は、……っ」
口を離し先輩の足に頭を預けると、優しく頬を撫でられた。
ひんやりした手が気持ちいい。
目を閉じたまましばらくそのままでいるうち、ようやく徐々に冷静になってきた。
「あー……すいません……」
「え? 何で謝るの?」
「なんか冷静になると恥ずかしいというか、みっともないところを見せてしまったというか」
「そんなことないよ。可愛かったしエロかったし最高だった。なあ、やっぱり俺にもさせて」
「え?」
視界がぐるっと回った。目を開けると、ソファーを降りてきた先輩に床の上で押し倒されていた。
「いや待って待って、俺今……」
「うん、ちょっとだけ。ちょっと口でするだけ。ね?」
「……っ!」
かわいく首を傾げた先輩は、抵抗する間もなく一度出したばかりの俺のそこに顔をうずめてしまった。
途端に襲ってきた快感に抗うことなんか、俺にできるはずがなかった。
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