私の好きな人はうるさい。

「ああ! 我が愛しのマーコートーさーん!」

 男のくせに小さなことで騒ぎ立てる。花島田にいわせれば小さなことではないのかもしれないけれど、正直鬱陶しい。

「まだ諦めてなかったんだ」

「ん? なんだいたのか」

 いくらノックをしても返事がないので、勝手に入らせてもらったのだ。案の定花島田は、音漏れするイヤホンと共に机へ向かっていた。そしてやっぱり途中で相模への愛を叫びだしたので、イヤホンコードを抜き取ってやる。スピーカーから大音量の洋楽が部屋中に響き、慌てて止めた。振り返ればもう机に向き直りこちらを見ようともしない。薄情なやつ。
 勉強しているのかと思えば卓上には並べられた数枚の写真。高校へ進学することによりやっと相模と花島田は引き離されたと安堵したのが数ヶ月前。しかしなぜか女子高内での相模の姿が目の前で広げられている。しかも彼らしいことにすべて正面からのベストショット。隠し撮りではないらしい。

「こんな女のどこがいいのよ、顔だけじゃない」

「顔だけじゃない」

 それはどうだろう。
 女である私から見ても相模は美人だ。しかし彼女の凶暴性は、直接話したことのない私にまで届くほど有名なのだ。つまり言葉よりも先に手が出てしまうタイプ。

「美人は性格悪い奴が多いよー」

「なるほど、だからお前はいい性格をしてるのか」

「それは意味違う」

 花島田はうるさい。だけど花島田は優しい。私がこれだけ相模の悪口をいっても責めない。怒らない。誰も悪くないから、やつあたりできない気持ちは花島田が消化してくれる。

12.04.04
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好きだバカ……
 
BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
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