刺激停滞:(極甘注意)

 勝ち続ける絶対の法則。それは1番であり続けること。だから俺は勝負を投げ出すわけにはいかない。


「手洗ってきた?」
「……洗った」

 部屋に戻ると、きちんと2つ準備されたグラス。平等に注がれていた飲料にムッとする。

「おい、なんだそれは」
「なにって、コーラ。欲しかったんでしょ?」

 元々飲みかけだったものを平等にわけたからといって、細かいことをいうつもりはない。先に飲んでいたぶんお前の方が多いだろうとか、この馬鹿にいったところで理解しないだろう。それに炭酸が飲みたかったわけじゃない。

「そんな安っぽいもの俺は飲まん!」
「はあ? だってさっき……」
「うるさい! 1人でコップを2つも使いおって。少しは洗うときの水道料を考えろ」
「手洗いに5分もかけた奴にいわれたくないよ」

 それは心の準備をしていたからしかたないんだ。それよりも緊張しながらここへやってきた俺の気持ちを察しろ。
 張っていた糸が途切れたことにより、一気に脱力する。ソファーにもたれかかり、やっと喉の渇きに気づく。緊張していたからな。そう、こんなにも緊張していたんだぞ。

「おい、俺にブルーアイズマウンテンをアイスで」
「あらお客様、またコップお使いになるの? まあ準備してあったけどね」

 卓上にドンと音をたてて置かれたポットには、敷きつめられた氷。熱々のコーヒーが目の前で注がれ、普段より濃い風味が漂った。

「コーラなんかよりこっちのが好きでしょ?」
「ほう、俺の好みを把握しているとはいい心がけだ」
「ジャックの1番好きはわかり易いから」

 氷を継ぎ足しガラガラとかき混ぜる。自分の使っていたグラスに少し注ぎ、ひとくちで嚥下する。そんな一連の動作を見て、俺の喉も自然と上下した。

「ちょっと薄くなっちゃったかな……」
「俺の1番好き、だと?」
「ん? まずブルーアイズマウンテンでしょ。それからレッドデーモンズドラゴン」

 再度コーヒーをとりに、パタパタとかける背を目で追う。

「なんだその程度か。確かに好きだが1番なわけじゃない」
「えー、じゃなにが1番なの?」
「それは……」

 沈んでいた心音が高鳴りだす。もしかしたらこれはいい機会なのかもしれない。息を吸い込み深呼吸。
 それは、おま

「あっ、やっぱり言わないで」
「……なんだと?」
「だっ、だってやっぱり自分で当てたい…から?」

 なぜ疑問系。
 あたふたと慌てだした少女を見て、また今度で良いかとため息をつく。ジャック・アトラスたるもの、雰囲気作りも1番でなければならない。

「熱っ!」

 慌て過ぎてコーヒーがはねたようだ。忙しい奴だな。とっさに氷塊へ指を突っ込もうとするので今度はこちらが驚いた。

「バカかっ! 火傷を直接氷につけるな」

 寸前で腕を受け止め、突き出されていた指をくわえる。しかし指よりも口内の方が少しばかり熱かったので、小さな氷も一緒に口へ放り込んだ。舌先で溶けた水を火傷のところへ運ぶ。

「……ジャック、あっちに水道あるから……」

 熱をふくみ続ける指先。震える声に顔を上げると、真っ赤な顔が目の前にあった。

「……水道料がかかるからダメだ」

 こいつの1番は俺のはずなのに、どうして俺は負けた気分になるのだろう。


―――
コーヒーで冷やせ(^p^)
ジャンクに入れようか本気で悩んだ。

 
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「見えない臓器の名前は」
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