真っ青な空の下ですくすく育つ可愛い夏野菜。生い茂る葉の影から、支柱の間から、今日も太陽の光を浴びて輝いている。日々美味しそうに育つそれらの成長は実に微笑ましい。そしてなにより、地中の住人を見つけては思わず頬が緩むのだ。

「今日もぷりっぷり。元気だね」

 健康状態良好。動きも活発的。彼らはいつもと変わらぬ様子で土の中ををうごめいている。私の研究対象であるミミズ。
 県立崎玉高校は農業校だ。肥料や培養土を研究対象とする生徒はもとより、そこに住まうミミズを研究する者は稀だった。大好きなミミズの研究は部活動扱い。自主授業の多い学年になりながらも自由な観察時間がもてないのはつらい。
 べつに作物が嫌いなわけではない。むしろ最初の興味は野菜にあった。どうすればより美味しい野菜が作れるのか。それは土の改善だ。ではどうすればいい土はできるのか。然らばミミズだ。ミミズは育て方しだいでいろんな培養土を作ってくれる。授業に集中しようも思考がそちらへいってしまうのだから仕方がない。我慢にも限界があるのだ。
 休み時間にちょこまかと土をいじり、授業中見つけたミミズを持ち出しては叱られ。そしてやっとむかえた放課後。開け放った窓際に日光浴用のプランターを集める。小さな部室で唯一の窓だ。平等に30分を図って場所移動をする簡単な作業。今日はのんびりとした1日になりそうだな。
 グラウンドから聞こえる野球部のかけ声。体育館から聞こえるバスケ部のシューズ音。音楽室から聞こえるブラスバンドのチューニング。ときどきテンポを乱す咽び泣き。それらに合わせるよういななく牛やヤギたち。平和だなあ。

「あーもう、大地1回顔洗ってこい!」

「ずーみ゛ーまぜーん」

 ドタバタという音と一緒に、長身がグラウンドから顔をだした。泣きはらしたその表情は、1年花壇の前を通れば笑顔にかわる。あの身長で1年生か、可愛いな。叫び声は同じクラスの市原だった。ということは、これが彼のうんざりしていたダイチくんなのだろう。水道へと一直線にかけてくる姿は従順そうなのに。

「ちわっ」

「……こんにちわ」

 直視していたら目が合い元気な挨拶。当然か。水道は窓の真下だ。それにしても爽やかな笑顔だな。
 
「ひなたぼっこすか?」

「うん、光合成」

「ハハッ気持ちよさそうっすね」

 気持ちいいよと適当に答えれば、無言でプランターを覗かれた。なるほど、少し図々しいのかもしれない。

「なに育ててるんすか?」

「……なんだと思う?」

 土の表面を凝視し首をひねる。1年生はなにをしても可愛いんだな。困った顔なんて今だからこその特権だろう。

「でてこないとわかんないっすね」

「大丈夫。すぐにでてくるよ」

「えっ、本当に?」

 なんの芽がでてくるのかと、ダイチくんは再度顔を近づけた。彼はいったいどんなふうに驚いてくれるのだろう。見開かれたキラキラな目を見て、喉の奥に笑みを隠した。そっとプランターを指ではじき数秒。もぞもぞと動きだす穴。期待に満ちた眼差し。そしてミミズはぴょこんと顔をだす。

「……」

「……うっ」

「……」

「うわあ゛ーーあん」

 泣きだしてしまった。

「えっ、農業科だよね」

 農業科もなにもこの高校には唯一の学科だ。確認むなしく彼はうなずく。

「むっ虫は苦手なんっすよお゛ー」

「虫じゃないけどね」

 ああ、泣かせるつもりはなかったのにな。ただもう少しだけ、困った顔をみていたかった。
 ダイチくんの泣き声を聞きつけ、市原がかけてくるのが見える。そういえば、君が顔だしたときとわくわくが似ているよ。なんていったらもっと泣いてしまうのかな。
 ミミズはすぐに引っ込んでしまったけど、なかなか引っ込んではくれないダイチくんの涙をみて、市原に怒られる覚悟を決めた。

12.03.30
―――
文章がおかしいな。
ゲテモノ表記要ったかもですね。
 
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