停滞刺激:
勝ち続ける絶対の法則。それは負けないこと。だから私は勝負を止めたの。
読みもされなかった手紙がゴミ箱へと落ちていく。
帰宅後の習慣となっている光景に、私は未だ慣れないでいた。ヒラヒラと物悲しげなそれは、まるで自分の未来を見るようだ。
「帰ったぞ」
視界を遮るように立ちはだかり、今日も偉そうに返事を要求する。
「はいはいお帰り」
「……あんなもの気にするな。どうせ簡単に好きだなんだと書かれているだけだ」
私の視線を追い鼻を鳴らす。
「……簡単、かな」
女の子がその1枚1枚を書くのにどれだけ時間がかかると思って。でも言わない。ジャックの気持ちもわかるから。
ジャックの愛は重い。きっと私がジャックに向けるそれよりもはるかに。釣り合わないと恋愛ができないとは思わないけれど、私が同じ質量の愛を返したところで、それはやっぱりゴミ箱行きとなってしまうのだ。
「飲まないならもらうぞ」
飲みかけのコーラが汗をかいていた。
「…ね、ジャック」
「なんだ」
いつもと同じ顔を、まだ私には見せてくれる。出かかった言葉を飲み込み、深呼吸する。
「外から帰ったらまず手洗い」
「なんだお前は母親か!」
嘘だけど好き。
冗談めかした言葉にさえ返事がある。それを聞く勇気がでない。勝負しなければ負けずにいられるなら、言わなければこのままでいられる。だから今はこれが私の愛情表現。
喉を通った炭酸がパチパチはじけた。