年明けがすぎ、のんびりと冬休みすごしていた。いつの間にやら周りには、様々な表情でチョコレートを手にする女の子たち。ああ、もうそんな季節なのか。
「善はなんか欲しいものある?」
善宅のコタツっぽいものにうずくまり、それとなく聞いてみる。働かずには現金を受けとらない彼のことだ。きっと“お金”といわず、次に飢えている食べ物をねだってくるだろうとの意図だった。
「カロリー」
うん。いや結果的に食べ物だったけどね。求めていたのとはちょっと違う。
「油でも飲んでなよ」
「それはコレステロールだ」
なにそれ、新しいトイレペーパーですか。
善との会話は疲れる。彼の真剣スイッチがよくわからない。
「もっと体にいいものにしなよ」
「体のためにいってんだよ」
ああいえばこういう。これだから頭の固いやつは嫌いだ。有国や大江先輩の答えはもっと優しかった。
『おっバレンタインだな、質より量で頼むぜ』
『……アルコールが入ってないんならなんでも』
まともで的確。実に渡しやすい。善はきっとバレンタインだということにすら気づいていないのだろう。鈍感だな。
「あーもー、チョコとかだと物足りないの?」
「チョコレート? ……いいじゃないか」
答えはあっさり返ってきた。無駄な遠回りしちゃったな。
「むしろ時期的にもベストじゃないのか?」
やっと気づいたのか。やっとわかったのか。嬉しそうに「くれよ」なんて笑う善をみていると、急に頭が熱くなった。子供みたいだ。なんだこれ。善がチョコレート欲しいんだってさ、ふーんそう。私のチョコレート欲しいのか。
「ちなみにどんなやつがいい?」
「板チョコだな!」
板チョコ。あれ、板チョコってどうやって作るんだっけ。いくら現実逃避しようと、たどり着く答えは同じ。板チョコはお店で売ってる原型だ。
「やっぱりチョコレートは夏場より冬だよな。溶けねーし、長持ちする」
何日までわけて食えるか計算し始めた善をみて気づいた。こいつ一生バレンタインとは無縁だ。
「……板チョコってわけやすいよね」
「おう!」
12.05.11