ひっそり気付かれないように溜め息を吐いて、隣を歩く十代の手を見つめた。
歩くのに合わせてゆらゆらと揺れる十代の手、先程からその手に触れたくてタイミングをはかっている。
「(いきなり手を繋いだらびっくりするよな)」
少し前の自分なら肩を組もうが抱きつこうが平気だったが、今は違う。
十代のことが好きだと気付いてしまった。
好きだと分かるともっと触れたくなるが嫌われるのが怖く、微妙に距離をあけてしまう。
今も手を繋ぎたい、と思っていてもそれを実行出来ないでいる。
「(俺ってこんなに弱かったっけ?)」
恋をすると人は変わると言うが本当のことのようだ。再び小さく溜め息を吐くと、隣から声がかかる。
「ヨハン、さっきから溜め息吐いてどうしたんだよ?」
僅かに首を傾げ心配そうにこちらをうかがう十代にひとつ心臓が大きく鳴る。
「な、んでもないっ」
思い切り目を逸らし、忙しなく鳴っている胸を押さえた。顔に熱が集まるのが分かる。
「何でもないってことはないだろ、言えよ」
どこか拗ねたような物言いに十代をちらりと見ると僅かに頬を膨らませていた。その様子が可愛いなと思い頬が緩む。
ひとつ深呼吸して、ゆっくり口を開く。
「手、繋いで良いか?」
言った後、十代がきょとんとした表情でこちらを見つめている。ああ、やっぱり駄目だよなと肩を落とし溜め息を吐くと、すっと十代が手を差し出した。
「十代?」
「それくらいいつでも良いぜ」
にっと輝くような笑顔で言う十代を思わずじっと見つめ、おそるおそるその手を握った。
「十代の手、暖かいな」
「ヨハンの手が冷たいんだろ」
くすくす小さく笑い合ってお互いぎゅっと手を繋ぐ。
さっきまでの緊張が嘘のように消えて、今は胸が暖かなもので満ちている。
幸せだなと、十代の暖かさを感じながら笑みを深めた。
END
4月8日はヨハンの日とのことで、ヨハ十。
title:雲の空耳と独り言+α