※フラグがたちました続き。
※マンガ版。



深い溜め息が零れる。
苛々するが気落ちもしている、なぜ自分がこんな思いをしなくてはならないのか。
それもこれもあの一年生くんの所為だ。
絶対名前覚えてもらう、と言って事あるごとに自分のところへやってきてはしつこく名前を告げ、こちらが適当に受け流すと憤慨し更に付きまとってきたのだが、最近まったく姿を見ない。
否、これはいつもの日常に戻っただけで気にすることはないはずなのだがなぜかこう苛々とする。
あの一年生くんの姿が見えないだけでこうも心乱されるなんて。
らしくなくて、自然と溜め息が零れた。
ふらふらとあてもなく歩いていると見知った姿を見つけ足を止める。
オシリスレッドの制服、紅茶色の髪。最近まったく姿を見せなかった一年生くんだ。眉を寄せ、考え込んでいるようでこちらには気付かない。
複雑な気持ちが胸に満ちる。一年生くんの姿を見つけ嬉しいような、こちらに気付かないのが不愉快なような。なぜ自分がこんな気持ちにならなければいけないのか。
ムカムカとしながら取り敢えず一年生くんに近づいていった。



最近、明日香の兄チャンに会ってない。
まあ、仕方ないって言えばそれまでだけど。一つ溜め息を吐いて、目の前に山となっているプリントを押しやる。
この前あったテストで赤点が多く、特別に課題が出たのだ。

「あーもー、分かんねえ」

頭をがしがしと掻きながら机に突っ伏す。
明日香の兄チャン、吹雪さんだったか、日課になった(言い方は悪いけど)つきまといが出来ず、ああ何だかもやもやする。今の俺にとっては勉強より吹雪さんに名前を覚えてもらうことの方が重要だ。
だがこの課題が出来なければ進級も危ういと、響先生に心配されているのだから頑張らなくてはとも思う。
でも頑張っても分からないものは分からない。
一応プリントを一枚引き寄せて読んでみるがやはり分からない。
眉を寄せ、首を傾げながら考えていると上から声がかかる。

「何をしてるのかな、一年生くん?」

はっと顔を上げると、笑みを浮かべる吹雪さんがいた。
何だか笑顔が胡散臭いと思うのはなんでだろうか。
じっと見つめて、ああと気付た。目が笑っていないのだ。

「何か用?」
「別に、」

問い質しても素っ気なく返され、そのまま沈黙が落ちる。

「(何なんだ、この人?何でこんな不機嫌なんだ?)」

変な汗が背中を伝い、嫌な感じがする。何だか自分が悪いことをして怒られている気分だ。
だが思い当たる節はまったくないし、聞いてみようかとちらりと吹雪さんを見れば机の上に置かれたプリントを見つめていた。

「なるほど、ね…」

どこか馬鹿にしたような言い方にかちんとするが、これ以上この人を不機嫌にさせるのはまずいと黙っておくことにした。

「テストで赤点を大量にとって課題を貰った、といったところかな?」
「うっ…」

図星をつかれ言葉につまっていると、吹雪さんが前の席に座った。
何で吹雪さんが自分の前に座ったのか分からず驚いて見つめる。

「教えてあげるよ」
「へ?」

一瞬何を言われた分からず間抜けな声が出てしまった。吹雪さんはやれやれといった感じで肩をすくめ、息を吐く。

「僕がわざわざ教えてあげるって言ってるんだよ、何か問題でもあるのかな?」

にっこりとした笑みは有無を言わせない迫力があり、思わず後退りそうになる。まあせっかく教えてくれると言うならありがたく受けよう。

「(何か…嬉しい?)」

半ば無理矢理ではあるが吹雪さんが勉強を教えてくれるということにわくわくとしている。
そんな自分に首を傾げながらも小さく笑みを浮かべた。



一年生くんに勉強を教えながら、内心首を傾げた。
さっきまで感じていた苛立ちがすっかり消えていたからだ。
それどころか浮かれているような感覚さえして、益々訳が分からない。なぜこの一年生くんに振り回されているのか。

「(これはまるで…)」

つかみかけた答えを、緩く首を振り否定する。
そんなはずはない。あり得ない。
小さく苦笑を浮かべると一年生くんが不思議そうにこちらを見つめていて、目が合った瞬間どきりとした自分に驚きつつも平静を装って勉強の続きを教える。
取り敢えず、さっさとこの課題の山を終わらせればいつもの日常に戻るはずだ。
そう思いながら一年生くんに気付かれないようにひとつ息を吐いた。



END
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