遊城十代ことアニキはヨハン・アンデルセンと仲が良い。何しろ親友であり恋人同士なのだから。
しかし、今その二人は大声で言い争いをしているのだ。
しかもその内容が砂を吐いてしまいそうなもので、見ているこちらが辟易としてしまう。

「俺の方がヨハンの事好きだ!」
「いいや!俺の方が十代の事好きだ!」

深い溜め息が零れる。
どっちがお互いの事をより好きかどうかの言い争いなんて、端から見たら下らない以外の何でもない。

「どうかしたの?」
「あ、明日香さん」

後ろから声をかけられ振り返ると明日香さんがゆると首を傾げていた。

「ちょっとアニキ達が喧嘩してて…」

ちらりと視線を向けるとアニキ達はいまだにどちらが好きかを言い合っていた。もう十分は言い合っているのだが決着がつかない、どちらでも良いと思うのだが本人達はどちらでも良い訳ではないらしい。
もう一度深い溜め息を吐くと、明日香さんが二人につかつかと歩み寄る。

「あ、明日香さん?!」

ぎょっとして明日香さんを見るが、こちらを気にした様子はなくアニキとヨハンくんのすぐ傍に立つ。

「二人ともいい加減にしなさい!」
「明日香には関係ないだろ!」
「邪魔しないでくれ!」

アニキとヨハンくんが振り向き、明日香さんを怒鳴るが次の瞬間二人の表情が凍り付いた。
明日香さんはにっこりと笑みを浮かべていた。
綺麗な綺麗な笑顔なのだが、その後ろにブリザードが吹いているのは気のせいだろうか。

「私に関係あろうとなかろうとね、こんなところで痴話喧嘩なんてされると迷惑なのよ、分かるわよね?」
「「…はい」」

綺麗な人が怒ると恐いんだなあ、と改めて思う。
激しい言い争い、もとい痴話喧嘩がぴたりと止まり、二人は小さく頷いた。

「分かれば良いのよ…まったく、犬も食わぬと言うけど…」

明日香さんは深い溜め息を吐いて肩を竦めた。
明日香さんの言葉に小さく苦笑を浮かべる。
アニキとヨハンくんを見ればお互いに謝りあっていた。犬も食わぬ、とは本当にそうだと思う。
やれやれと肩を竦めて仲良く笑い合っている二人を見つめた。



END

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