ふわりと鼻腔をくすぐるのは甘い匂い。
黒子は何度も目を瞬かせ、目の前に用意されたデコレーションケーキを見つめた。フルーツがふんだんに使われていて、クリームも凝った模様が描かれ、チョコプレートにはHappy birthday!と書かれていた。
「(それにしても…)」
黒子はケーキをじっと見つめる。
「(大きい、ですね…)」
おおよそ十八センチはあるホールケーキに黒子は僅かに怯む。ちらりと視線を上げ、向かいに座る紫原を見るとにこにこと笑っていた。
「紫原君…これ、その…大きくないですか?」
「そーお?でも、大きいほうが嬉しくない?」
紫原がこてんと首を傾げて黒子を見つめると黒子は小さく苦笑を浮かべた。
恐らく自分が嬉しいからと大きなケーキを用意してくれたのだろう、その気持ちが嬉しくもあるがこれは二人で食べきれるのかと黒子は少し不安になる。
「頑張って作ったんだー」
ふにゃとした無邪気な笑顔で言う紫原に黒子は再び目を瞬かせた。
「…作ったんですか、すごいですね」
黒子の感心した声に紫原はにこにこと笑みを浮かべたまま、小さく頷く。
黒子は凝っていると感じていたがまさか手作りとは。
「黒ちんに喜んでもらえて良かった」
驚いている黒子に紫原は嬉しそうな声で言ったあと、じっと見つめる。
「黒ちん」
呼ばれて黒子も紫原を見つめ返す。
「誕生日おめでとう!」
紫原の言葉に黒子は嬉しそうに、満面の笑みを浮かべた。