どうしてこうなったんだろう、と小さく首を傾げる。
背には床、目の前には遊星。遊星は覆い被さるようにして、こちらの腕をしっかりと押さえていた。
「…おーい、遊星?」
「なんれすか?」
呼んで見れば呂律がまわらない様子で、視線もゆらゆらとしている。呼気から僅かにアルコールの匂いがしていて、ああ酔ってるなと納得し小さく息を吐いた。
誰が飲ませたのか、あるいは間違えて遊星が飲んでしまったのかは分からないが、さっきから押さえられている腕が痛い。いつもの遊星ならこんな事をしないだろうに、酒の力というのはすごいな。
「遊星、酔ってるだろ」
「よってません」
「酔ってるやつは皆そう言うぜ」
呆れたように言って、身を捩る。
「とりあえず、退いてくれないか?痛くて…」
「じゅーだい、さん」
遊星はまったくこちらの言葉に応えることなく相変わらずゆらゆらとはっきりしない視線で見つめてくる。
「すき…れす」
「うん、知ってるって」
苦笑を浮かべて言うが遊星はやはり聞いてない様で、すき、と繰り返す。
普段こういった事を遊星は言わないから珍しいし、嬉しくもあるが複雑な気分だ。こういうのは酔ってないときに言って欲しい。
「遊星、取り敢えず離してっ…!」
離してくれ、と言おうとしたが遊星に唇を塞がれた。驚いている間に遊星の口付けが深いものになる。
「んっ…ふぅっ…」
頭がくらくらしてくる。遊星とこんな風にキスした事は今までなかった、触れるだけのものが数度あるくらいだ。
腕はいまだに押さえられていて動かせず、この状況をどうにもする事が出来ない。
「ん…っ」
ゆっくり遊星の唇が離れていったかと思うと、今度は首筋に唇を押しつけられる。
驚いて身を捩らせると、逃がさないとばかりに強く吸い付かれ、軽く歯を立てられた。
「っ…遊、星」
名前を呼んでも遊星は応えず、首筋に舌を這わす。体が熱くなり、背筋がぞくぞくしてくる。
どうしよう。
ぼんやりする頭でこのままではダメだと思うが、体に力は入らないし、うまく思考がまわらない。
そんな事を考えていると急に体に重みがかかる。
「ゆ…遊星?」
呼んでみると、返事はなく代わりに規則正しい寝息が返ってくる。
酔いが回ったのだろう、遊星は眠ってしまっていた。
深い溜め息がこぼれた。
まったくなんてやつだ、これだけしといて眠ってしまうなんて。
腕を押さえている力も緩んでいて簡単に外せ、遊星をそっと退かすと衣服を整えた。
「…危なかった、か」
再び深い溜め息を吐くと遊星をちらりと一目見て、今日はこのままにしておこう、それくらい許されるだろう。
明日になったら遊星になんと言ってやろうか考えながらその場を後にした。
END