黒子が図書室で本を読んでいると紫原の視線が頬をかすめた。
黒子は本から目を外さずにどうしたものかと思案した。先ほどからちらりちらりと紫原がこちらを見ているのに気付いていたが、何も言ってこない。
黒子は気になって、本の内容がまったく頭に入ってこない。
小さく息を吐くと、黒子はページの間にしおりを挟むと静かに本を閉じた。
「紫原君」
黒子は周りに迷惑にならないよう声をひそめて紫原を呼ぶ。
紫原は緩慢な動きで黒子を見つめゆると首を傾げた。
「なあに?」
「さっきからボクのことを見てましたよね」
黒子の言葉に紫原はますます首を傾げ、眠そうな目をぱちりと瞬かせた。
「そう、だっけ?」
きょとんとした様子で見返す紫原に黒子は僅かに眉を寄せる。
確かに紫原は黒子をちらりちらりと見ていた、だが本人は意識して見ていたわけではないようで不思議そうにしていて、黒子は困惑してしまった。
そんな黒子の様子に気付かない紫原は、んーと小さく唸って首を傾げるとぱっと顔を輝かせ、ふにゃっとした笑顔を浮かべた。
「あー、分かった。オレ、黒ちんにかまって欲しかったんだー」
それで黒ちんのことみてたんだー、と一人納得してにこにこと笑う紫原に今度は黒子が目を瞬かせた。
「黒ちん」
さっきまでとは違う甘い声で呼ばれて黒子の肩がびくりと震えた。じっと黒子を見つめる紫原の視線は僅かに熱がこもっていて、黒子の頬は赤く染まる。
「オレをかまって?」
長い指がそっと黒子の頬に触れる。
黒子はますます頬が熱くなるのを感じながら、小さく息を吐きくすりと笑った。
「いいですよ、ただ図書室では駄目ですよ?」
黒子の言葉に紫原は嬉しそうに笑って、うんと頷いて、黒子の頬を優しく撫でた。
END