久しぶりに十代から連絡がきた。
アカデミア卒業後旅に出た彼は今どこで何をしているのか知らない、連絡は滅多になかったし、こちらから連絡しても返ってくる事は稀だ。
そんな十代から連絡がきたのだ、驚きと喜びで微かに震えながらメールの受信ボックスを開いた。
『カード戻ったか?』
思わずがくりと脱力した、十代らしいと言えば十代らしいのだが、挨拶もなく用件のみのメールに苦笑がこぼれる。
一つ息を吐いて、もう一度メール画面を見る。レインボードラゴンが奪われてしまったのは少し前の事だった、だがカードは無事手元に戻ってきている。
多分十代が取り戻してくれたのだろう、彼は今や常人では計り知れない力を持っているのだ。この不可解な事件に関わったに違いない。
もう一度息を吐く。
それにしたってもう少し詳しく説明してくれてもいいような気がするが十代だから仕方ないか、と思う自分にも呆れてしまう。
何と返信しようか暫く悩むと、一言打った。
『戻ってきたぜ、ありがとな』
それだけ打つと送信ボタンを押す。
本当は事情を聞きたいところだが、十代からの返信はほぼ期待出来ない。
送信完了を確認して携帯を閉じると、再び携帯が鳴った。予想外の出来事に慌てて携帯を開くと十代からの着信だった。
珍しい事もあるものだと、驚きつつも通話ボタンを押した。
「十代…?」
『もしもし、ヨハン?』
久しぶりに聞く十代の声に自然と鼓動が早くなる。
「ど、したんだ?」
自分でもびっくりするくらい動揺していて、うまく声が出ない。だが十代は気にした様子はなく問いに答えた。
『ヨハンと話がしたくてさ、今から家行っていいか?』
十代の言葉に再び驚き、目を見開いた。確か前にアパートの住所を教えたから知ってはいるだろうが、土地勘のない場所では迷ってしまうだろう。自分でさえいまだに迷うくらいだし。
「いいけど…場所分からないだろ?迎えに行くから、今どこら辺だ?」
携帯を片手に急いで部屋の戸に手をかける。
『あー…今ヨハンの家の前』
「………は?」
一瞬、十代が何を言ってるか分からず間抜けな声が出てしまった。
家の前にいる、そう言っていたかと思うが信じられずおそるおそる戸を開けてみると、そこには確かに十代がいた。
「十代?」
「久しぶりだな、ヨハン」
明るい笑みを浮かべる十代に何と言っていいか分からず、言葉が浮かんでは消えていく。
呆然としていると十代が心配そうにこちらの顔を覗き込む。
「大丈夫か?」
「っ、何でもない!…それにしてもいきなりどうしたんだ?」
首を横に振り、小さく笑みを浮かべて問うと十代は一度瞬いてにっこりと笑みを浮かべた。
「ヨハンと会って話たかったからさ、俺に色々聞きたいこともあるだろ?」
十代の言葉に再び驚きながらも頬が緩みそうになる。会って話たかった、と言われたのが嬉しくて仕方ない。
「すごいことがあったんだぜ!ヨハンには聞いて欲しくてさ」
どこか興奮したようなきらきらした目で言う十代にこういうところは変わってないなと僅かに苦笑する。
十代が言うのだから、きっとすごいことがあったのだろう。
自然とわくわくしてきて、早く十代の話を聞きたくなった。部屋に入るよう促すと、変わらない明るい笑顔で十代は頷いた。
END
title:緋 桜 の 輝 き 、