黄瀬は機嫌が良かった。
足取り軽く、スキップでもしてしまいそうだった。
隣を歩く黒子はそんな黄瀬を怪訝そうに見つめた。

「黄瀬君、どうしたんですか?」

あまりの黄瀬の浮かれっぷりに黒子は小さく首を傾げる。黄瀬はへらりと締まりのない顔をする。

「いや、だって黒子っちからのお誘いなんて珍しいし、待ち合わせして二人きりでなんて…!」

黄瀬は黒子に呆れられるかもしれないと思ったが、それでも言わずにいれなかった。

「デート、みたいっスね!」

力強くそう言って黄瀬が輝くような満面の笑みを浮かべると、黒子は無表情のまま一度目を瞬かせ、僅かに眉を寄せた。

「………」

ほんの僅かな表情の変化だが、黄瀬はああやっぱり呆れられたと思い慌てる。

「いや、冗談スよ!怒らないで、黒子っち」

無言のままの黒子に黄瀬は怒ってしまったのだと思い、ますます慌てる。黒子はじっと眉を下げてしまった黄瀬を見つめると、すいと視線を外した。

「別に…怒っていません」
「本当っスか?」

黒子が小さく頷くと黄瀬はほっと息を吐いた。
せっかく二人きりだというのに、浮かれてつい言ってしまった発言で黒子を怒らせてしまうのは悲しいし、嫌だった。黄瀬は黒子のことが好きで、こうして誘われ本当に嬉しかった。

「(…気を付けよう)」

黄瀬は心の中で固く決意し、小さく頷いた。
黒子はそんな黄瀬の心中を知らず、ひっそりと溜め息を吐いた。

「(デート、のつもりなんですが…)」

みたいだ、と黄瀬に言われたことが黒子はちょっと引っ掛かりほんの僅かに眉を寄せてしまった。ただデートだと明言していないし、今更言うのも何となく照れがあり言い出せない。

「(ちょっとは察してくれてもいいと思うんですけど、)」

黄瀬に言ったとおり、怒ってはいないが何とも言えない気持ちになりもう一度黒子は溜め息を吐く。

「黒子っち?」

黄瀬が黙ってしまってる黒子を心配そうに除き混む。黒子は微かに笑みを浮かべて、大丈夫ですと答え、黄瀬の腕を軽く引く。

「黄瀬君、行きましょう」

黒子の行動に驚きつつも、笑みを浮かべた黒子に黄瀬は嬉しくなる。

「はいっス!」

黄瀬が笑みを返すと黒子はほんの僅かに頬が熱くなるのを感じた。
黄瀬に気付かれないように顔を逸らして、腕をとったまま歩きだした。



END



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