もう一度、彼女に会いたいと願った。なぜそんなにも会いたいと思ったのか、自分自身分からない。
ただ脳裏に焼きついて離れない彼女の眩しいほどの笑顔を思い出すたびに言い知れない痛みが胸を締め付ける。

「…十代さん」

名前を呼ぶと胸の奥に疼くような痛みが広がり、右腕の痣が赤く光った。



石造りの建物と石畳の道が目の前に広がる。十代さんと初めて会った場所に似た雰囲気だが、また別の場所なのだろう。
十代さんにもう一度会いたい、そう願ったと同時に過去へとやってこれた。おそらく、ここに十代さんがいるだろう。
一度深呼吸し、一歩踏み出そうとした時後ろから声がかかった。

「遊星…?」

躊躇いがちな声は多分ここに自分がいるのを驚いているからだろう。
ゆっくりと振り返るともう一度会いたいと願った人がそこにいた。
僅かに首を傾げ、大きな琥珀色の瞳が自分を写して、そっと細められる。

「やっぱり、遊星!久しぶりだな」

喜色満面な表情を浮かべ十代さんは肩を軽く叩く。
思わぬ接触に微かに体が震えたが、十代さんは気付いた様子はなく笑みを浮かべたまま話しかける。
もう一度この笑顔を見ることができ、胸が高鳴るのが分かる。

「元気だったか?」
「はい、十代さんもお変わりないようで」

小さく笑みを浮かべて答えると、十代さんは良かったと言って、ひとつ頷いた。

「今日はどうしたんだ?また、何かトラブルがあったのか?」
「いえ、そういう訳じゃありません…十代さんはここで何を?」

笑顔から心配そうな表情で自分を見つめる十代さんを安心させるように柔らかく笑みを浮かべてたずねると、十代さんはああ、とひとつ頷いた。

「…知り合い、と待ち合わせしてんだけどさ、」

そう言って十代さんは深い溜め息を吐く。

「あいつ、方向音痴だからさ」

どこか拗ねたような言い方だったが、十代さんの顔は今まで見たことのない、ひどく優しい表情を浮かべていた。
瞬間、ガツンと頭を殴られたような衝撃を受ける。
気付いてしまった。
ひどく優しい顔をする十代さんの頬が微かに赤く染まっていて、あいつと呼ぶ声に僅かな甘さが含まれていることに。

「(…好き、なんだ…十代さんはその人のことを)」

先程までとは違う動悸がし、苦しい。
その人はきっとこれからも十代さんと同じ時間を共有し、絆を深めていくのだろうと思うと何とも言えない激情にかられそうになる。
俯いて唇を噛む。

「…遊星?」

心配そうな十代さんの声にはっと顔をあげ、慌てて笑みを浮かべる。

「何でも、ありません…」

少しぎこちなさはあったが、それでも十代さんは安心したように柔らかな笑みを浮かべた。
再び胸が高鳴った。

「(…そうか、俺は)」

十代さんが好きなんだ。
なぜあんなにも、もう一度彼女に会いたいと願ったのか、十代さんの笑顔に胸が高鳴ったのも、見知らぬ待ち合わせ相手に嫉妬したのも、すべて納得がいく。
気付いてしまえば何でもない、これが恋というものだろ。

「(なら、俺は…)」

例え十代さんが別の誰かを好きでも、絶対に諦めない。そして負ける気もない。

「十代さん」

名前を呼ぶ自分の声が甘さを含んでいて、僅かに驚きながらも今度はまともに笑えた。

「また、会いに来ても良いですか?」

一瞬、十代さんはきょとんと瞬いたがすぐに満面の笑みを浮かべて、もちろん、とこたえた。
今はまだ俺はただの仲間のひとりにすぎないだろうけど。

「(絶対に、負けない!)」

そう心の中で叫んで、十代さんに笑みを返した。



END

32623hitキリリク、雪ん子様に捧げます。
大変お待たせいたしまして、すみません!
二十代とヨハンのところに遊星がタイムスリップ、ヨハ二十♀←遊、ということで、ヨハンが出てきておりませんが少しでも楽しんで頂ければ幸いです(^-^)
リクエストありがとうございました!

title:夜風にまたがるニルバーナ
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