黒子は一度目を瞬かせ、首を傾げた。あり得ない光景が目の前に広がっていたからだ。
休日の練習日、黒子はいつも通りに誠凜高校へやって来て、着替えて体育館へとやってきた。いつもなら部活のメンバーたちが練習を始めていたりするのに、そんな様子はなく全員がコートの中央に集まっている。そして集まっているのは誠凜のメンバーだけではなかった。

「どうしてあの人たちが…?」

誠凜のメンバーと睨み合うようなかたちで対峙しているのは黒子のかつてのチームメイトたち、黄瀬、緑間、青峰、紫原、赤司だった。
何故誠凜にいるのか、何をしにきたのかと疑問は尽きないが、一部の人間が一触即発な雰囲気を醸しだしており、黒子は仲裁のため両者の間に割って入った。

「何をしてるんですか」

突然現れたように見える黒子にその場にいた全員が驚く、そのお陰か場の雰囲気は落ち着いたようで黒子はひっそりと息を吐いた。

「黒子っち!」

黒子がほっとしたのも束の間、ぱっと伸びてきた腕に引き寄せられ抱き締められる。

「…黄瀬君」
「会いたかったっス!」

嬉しそうに笑う黄瀬を見上げながら黒子は黄瀬に犬の尻尾があったら千切れんばかりに振っているのだろうな、と思った。それだけ黄瀬は嬉しそうにしているのだが、いきなり抱き締められた黒子は苦しくてしかたない。だが体格差がありすぎて黄瀬の腕を振り払うことが出来ずどうしたものかと思い悩む。

「涼太、離れようか?」

ひゅっと風を切る音がしたかと思うと黄瀬の腕が離れ黒子は自由になる。何事かと見れば、にこりと笑みを浮かべている赤司がハサミを片手に黄瀬を見つめる。
一方黄瀬は青い顔で赤司を見ていた。

「ちょっ、危ないじゃないっスか!」
「避けれたから良いじゃないか」
「そういう問題じゃないっス!」

黄瀬と赤司が言い合うのを黒子は呆然と見つめていた。
何とか二人を止めなくてはと黒子が周りを見回すと、同じように言い合う相棒と元相棒の姿が目に映る。

「何でお前がここにいんだよ、帰れよ!」
「お前には関係ねぇだろ」

こちらは今にも手が出そうな火神と青峰に黒子はこの二人は頼れないと判断し、視線を逸らして小さく息を吐く。

「黒ちん」

名前を呼ばれ黒子が顔を上げるとふにゃっとした笑みを浮かべる紫原が頭を撫でる。

「俺と遊ぼー」

黒子は眉間に僅かに皺を寄せ、紫原を睨むように見つめ手を振り払おうとしたが、ぱしっと乾いた音が響いて紫原の手は振り払われていた。

「止めるのだよ、紫原」

黒子より先に緑間が紫原の手を払ったのだが、今度はこの二人の間で不穏な空気が流れる。
紫原には先程までの子供のような無邪気さはまったくなく、怒気をはらんだ視線を緑間に向け、緑間は眼鏡のブリッジを上げ紫原に負けじと鋭い視線を返す。

「(…何でこんなことに)」

黒子が深い溜め息を吐くと日向が励ますように肩を叩いた。

「まあ…大変だな」
「何だかすみません…」

このままでは練習が出来ない、何とかしなくてはと黒子は思うがまた自分が出ていくとややこしいことになるのではと思うと、なかなか仲裁にすら入れない。
誠凜のメンバーもどうしたものかと顔を見合せていると、木吉が睨み合っている者同士を見つめ首を傾げた。

「ところで、お前たちは何しに来たんだ?」

木吉の言葉にキセキたちは睨み合うのを止めお互い顔を見合せた後、声を揃えた。

「「「「「黒子(っち・テツ・黒ちん・テツヤ)に会いに」」」」」
「………」

五人の視線が黒子に集中し、黒子は思わず顔を逸らした。妙に熱い視線に背中がむずむずする。

「なるほどな」
「納得すんな!」

五人の答えに木吉が鷹揚に頷くと日向がすかさず突っ込みを入れる。
黒子はとにかく視界に入れまいと俯いていると、ふっと影が落ちる。黒子がはっと顔を上げるとにこりと笑う赤司が見下ろしていた。

「なん、ですか?赤司君」

黒子がおそるおそる赤司を見返しながら一歩だけ後ろへ下がる。

「僕がわざわざ来たのには訳があるんだよ」

赤司は黒子が下がった分だけ近づく。顔は笑顔のままで、何とも言えない迫力がある。

「テツヤが好きなんだ、だから会いに来た」

赤司の言葉に周囲の空気がぴしりと固まった。当の赤司は泰然としていて、言われた黒子は呆然としていた。

「オレも黒ちん好きー」

そう言ってふにゃっとした笑みを浮かべながら紫原は黒子を後ろから抱き締めた。すると黄瀬がずるいっス、と声を上げる。

「オレだって黒子っちのことが好きっス!」

黄瀬は紫原から奪うように黒子を自分の方へ引き寄せると、ぎゅうっと抱き締めた。

「はっ?黄瀬、何言ってんだ、テツはオレのだ!」

青峰は黒子から黄瀬を引き剥がし、肩を掴むと自分の方へ引き寄せる。
そして再び睨み合いを始める四人をよそに黒子は混乱していた。
まさか元チームメイトたちに告白されるなんて思ってもみなかった、彼らのことは嫌いではないが好きではない。だが、実は黒子にも好きな相手はいる。
黒子は先程から黙って四人を見つめる人物を一瞥した。唯一黒子に告白していない人物、緑間だ。
他の四人に対して呆れたのか、眉間に皺を寄せ、口を真一文字に結んでいる。

「緑間…」

君、と続けようとした黒子だがその緑間に腕を掴まれ、青峰から離されると肩を抱かれる。
黒子は驚いて緑間を見上げるが緑間は呆然とする四人を睨むように見つめきっぱりと言い切った。

「オレが一番黒子を好きなのだよ!」

緑間の言葉にその場にいた全員が言葉を失い、呆然とした。緑間は気にした様子なく、黒子をじっと見つめた。

「黒子はどうなんだ」
「…え?」
「オレのことを…どう思っているのだよ」

黒子は緑間を見返して、目を瞬かせる。黒子の頬がじわりじわりと赤く染まっていき、微かな声で答えた。

「…ボクも…好き、です」

微かだが嬉しさを滲ませた黒子の笑みに緑間も小さく笑みを浮かべた。
そして黒子の答えに再び場の空気が固まったがそれはほんの一瞬で、緑間と黒子以外の悲痛な絶叫が響いたのだった。



END

31600hitキリリク、浅緋様に捧げます。
キセキたちを書けて楽しかったです!リクエストありがとうございました!
少しでも楽しんで頂ければ幸いです(^-^)

title:瑠璃
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