「ふあ……」

黒子は旅館の窓辺から外の風景を見て感嘆ともつかない声を上げる。白い煙が建物を縫うように広がっている。
以前部活のメンバーとともに温泉へ行ったことはあったが、湯煙に包まれた温泉地の光景はなく、珍しさに目を奪われる。

「テツヤ、温泉行こうぜ」
「和成君…」

名前を呼ばれ黒子が振り返ると高尾が楽しげに笑っていた。
黒子は少しだけ面映ゆい気持ちになり僅かに視線を逸らした。

「あれ?テツヤどうかした?」
「もしかして体調でも悪いのか?」

高尾の後から氷室と笠松が心配そうに黒子を見つめる。ふいに手が伸びてきて黒子の額に当てられる。

「んー、熱はないみたいやな…テツヤ、大丈夫か?」

いつの間にか今吉が黒子の傍にやってきて心配そうに顔を覗き込んだ。黒子は僅かに後ろへと身を引いて大丈夫です、とひとつ頷いて俯いた。

「(久しぶり、だから…?)」

黒子と高尾、氷室、笠松、今吉の五人は幼なじみだ。中学、高校はバラバラだが仲は良い、今日は本当に久しぶりに全員が集まったのだ。
黒子にとって大切な幼なじみたちだが久しぶりに会って苗字でなく名前を呼ばれるのは何だかくすぐったく、照れてしまう。
だがせっかく集まれたのに照れていては皆に迷惑をかける、それは嫌だと黒子はぎゅっと拳を握り締め落ち着かせるためにひとつ深呼吸をする。

「…心配かけてすいません、ボクは大丈夫ですから、皆で温泉行きましょう」

黒子がにこりと微笑んで言えば、四人は安心したように笑みを返し頷いた。



時間帯に空いているのか、黒子たち以外の客はおらず貸し切りのようだ。

「テツヤ、背中流してやろうか」
「ありがとうございます、幸男君」
「あ、ずりー」
「まあまあ」
「それやったらワシはテツヤに背中流してもらおか」

貸し切り状態に全員のテンションが高くなり、和気あいあいとした雰囲気になる。自然と緊張がとけて黒子はくすくすと楽しそうに笑った。

「はぁ…温泉って良いな」

高尾は肩まで湯に浸かり、息を吐く。

「テツヤ、熱くない?」
「大丈夫ですよ、辰也君」

気を遣ってくれる氷室に黒子は笑みを返し答える。

「のぼせる前に出ろよ」
「そやな、まあのぼせても介抱したるから安心しや」

笠松と今吉の言葉に黒子は僅かに苦笑する。この中では確かに一番年下だが高尾も同い年だ。そんなに心配しなくても、と思うがそうやって気遣ってくれるのが嬉しいとも思う。

「…ボク、皆のこと好きです」

黒子の言葉に四人は目を瞬かせ、ぽかんと見つめたかと思うと四人は黒子の傍へと寄り、高尾と笠松は顔を近っけ氷室と今吉は黒子の手を取った。

「あの…?」

どうしたのかと黒子は四人をそれぞれ見回す、四人とも笑みを浮かべている。

「テツヤ」
「俺たちも」
「君が」
「好きやで」

そう言って四人はそれぞれ黒子の頬と手の甲にキスをした。今度は黒子が目を瞬かせて、再び四人を見回すと嬉しそうに微笑んだ。
五人だけの浴場に楽しげな笑い声が響いた。



END

30000hit企画。青蘭様よりリクエスト、青蘭様のみお持ち帰り可。
今吉が似非関西弁ですみません;少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
リクエストありがとうございました!

title:ごめんねママ
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