十代さんはよく話をしてくれる。
十代さんの声は耳に心地好く、自分はそんなに饒舌ではないので自然と聞き手にまわる。

「その時翔がさー」

十代さんの話は面白い、だが時々出てくる名前に焦燥感の様なものが胸に広がる。
多分友人なのだろう、その人達との思い出を語る十代さんの表情は懐かしく嬉しそうだ。今目の前にいる自分ではない誰かを思っているのだろう、柔らかな表情は決して自分には向けられたものではない。
十代さんに気付かれない様にひっそりと溜め息を吐いた。
確かに十代さんとの付き合いはそんなに長い訳ではないし、この想いも一方的なものだ。

「遊星?」

名前を呼ばれ、はっと十代さんを見ると琥珀色の瞳が不思議そうにこちらを見つめていた。

「どうしたんだ?」
「いえ…何でもありません」

問いかける十代さんに小さく笑みを浮かべてみせると、一度瞬いて僅かに首を傾げながら、そうか、と呟いた。
こちらをじっと見つめる十代さんに、安心感の様なものが胸に広がる。今、彼はしっかりと自分を見てくれている、過去の人物達ではなく。

「十代さん、」

そっと手を伸ばし、頬を撫でると小さく囁く様に言う。


きっと夢中にさせるから。



END



title:確かに恋だった
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