『十代』

その声は母親が我が子を呼ぶように柔らかく甘い。そっと半透明の手が髪を梳くように優しく撫でてていく。
見上げると優しげな笑みを浮かべるユベルがこちらを見ていた。

「ユベル…」

名前を呼ぶと何だい、と小さく首を傾げる。ふいに鼻がつんとする、眉の辺りがぎゅっとなって痛い。景色がゆらゆらにじんで温かいものが目からこぼれていく。
今日は自分とユベル以外誰もいない、みんな用事があって出てしまっている。いつもいるみんながいないのはさびしい。前は平気だったのに今はとてもさみしくて仕方ない。

「(ユベルがいるのに…)」

こんなふうに思うのはいけないことだ、何とか泣きやもうとする。うつむいて両手で顔を隠した。泣くとユベルも困ってしまう。

『十代』

柔らかく甘い声が呼ぶ。
そっと顔をあげるとユベルは優しく微笑んでいた。

『寂しいのは悪いことじゃないよ、十代は遊星たちのことが大好きなんだから…寂しいのは普通のことなんだよ』

そう言って半透明の指が涙を拭うように頬を撫でる。
ユベルの言葉にまた涙がほろりとこぼれた。悪いことじゃない、普通だと言ってくれたことに安心した。

「ひくっ…ぅ…ユベル、ありがと…っ」

ユベルは相変わらず優しげに微笑んでいる。いつもいつも傍にいてくれる大切なヒト。
触れられないのはわかっているけどそれでもかまわないと思ってユベルに抱きついた。



END
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