遊城十代は困惑していた。
自分を取り囲む人物たちからは真剣な眼差しを向けられ、十代の答えを待っている。

「(何で、こんなことに…?)」

嫌な汗が背中を伝うのを感じながら引きつる頬を何とか笑みの形にする。
目の前にいるのは遊戯さん、もう一人の遊戯さん、遊星、遊戯さんのカードであるブラック・マジシャン、同じくブラック・マジシャン・ガール。もう一人の遊戯さんとカードたちはどうも自分の力の所為で実体がある。
どうしてこんなことになったのか。周りに気付かれないようにひっそりと息を吐いて、思い返してみる。



伝説のデュエリストと未来からやってきたデュエリストと共にパラドックスの企みを止め、友人たちのカードを無事に届け、またあてのない旅を続けていたときだった。
見知った姿を見つけ慌てて駆け寄った。

「遊星!」

遊星はこちらに気付いて軽く頭を下げて小さく微笑む。

「お久しぶりです、十代さん」
「本当だな!て言うか、どうして遊星がここに?まさかまた何かあったのか?」

わざわざ未来からこちらまでやってきたのには何か訳があるのだろうと遊星を覗き込むように見れば、僅かに顔を逸らされた。

「いえ、特に何かあった訳じゃないんです…ただ」

ふと目を伏せる遊星の頬が気のせいか微かに赤いような気がする。

「十代さんに、会いたかったんです」

そう言ってにこやかに笑う遊星。自分に会うためにわざわざ未来からやってきたのかと思うと嬉しくもあるが照れる。じわりと頬が熱くなるのはこの照れからだろう。

「はは…何か照れるぜ、でもありがとな!」

にっと笑って言えば遊星は嬉しそうに微笑み返した。

「あ、どうせならさ遊戯さんたちのところに行ってみないか?」

我ながら良い考えだと笑んで頷くと遊星はどこか複雑そうな表情を浮かべた。
どうしたのだろうかと首を傾げて見つめると遊星は何でもない、という風に小さく微笑んだ。

「そうですね…行ってみましょうか、遊戯さんたちの時代へ」
「おう」

大きく頷いて、遊星のD・ホイールへと跨った。こうして再びこの未来のデュエルディスクに乗ることが出来るとは思っていなかった。知らず知らず胸が高鳴っていく。

「それじゃあ、行きますよ」

しっかりと遊星の腰にしがみ付くと僅かに遊星の身体が強ばったように思えた。
大丈夫かと問う前に遊星がエンジンをかけD・ホイールを疾駆させる。舌を噛まないよう慌てて口を噤むと周りの景色が滲んで形を失って闇の中のような光の中のような不思議な空間へと向かっていく。
再び胸が高鳴っていく。またあの人たちに会えると思うと確かにこの時胸の奥が喜びに震えたのだった。



「遊戯さん、お久しぶりです!」

目的の人物はすぐに見つかり、跳ねるように駆け寄ると遊戯さんは柔らかな笑みを浮かべて迎えてくれた。

「十代くん、久しぶりだね」
「流石に驚かないんですね」

やはり経験の差なのだろうか。突然現われた自分たちに驚くどころか笑みを持って迎えるとは、自分は思い切り驚いたのだが。
妙なところに感心していると遊戯さんがあ、と小さく声をあげた。

「遊星くんも久しぶりだね」
「はい、お久しぶりです」

にこやかに後からやってきた遊星を迎える遊戯さんに会釈する。
遊星と遊戯さん、それに俺。こうして三人で向き合っているとあの時のことを思い出して自然と笑みがこぼれる。まさかまた三人揃って会えるなんて。

「(遊星には感謝しないとな)」

遊星と遊戯さんが談笑しているのを時に相槌を打ちながら聞いていると、ふと妙な気配を感じる。
何だろうかと辺りを探ると遊戯さんからその気配を感じ取り、そちらに視線を向ける。この感じには覚えがある、カードに宿る精霊だ。
それからもうひとつ。精霊ではない気配がする、恐らくこちらはもう一人の遊戯さんだ。

「(どうしたんだ…ッ!)」

じっと見ていると、突如目の前に鮮やかな色彩があふれた。
驚いて目を見開く三人、どうやら遊戯さんと遊星も相当驚いているようだ。そんな自分たちに気にした様子なく遊戯さんのカードに宿る精霊、ブラック・マジシャン・ガールははっきり具現化しにっこりと笑みを浮かべた。

「こんにちは!十代さん」

そう言うやいなや彼女はぴょんと自分に飛び付いてきた。
とたんふわりと少女独特の甘い香りが、鼻に入り込む。柔らかく弾力のある感触が腕に押しつけられ知らず頬が赤く染まる。

「ブラック・マジシャン・ガール」

遊戯さんが驚いたような呆れたような口調で名前を呼ぶがブラック・マジシャン・ガールはゆると首を傾げてにこりと微笑む。

「何ですか?マスター」
「十代くんが困ってるから離れなよ」

遊戯さんの言葉にブラック・マジシャン・ガールは大きな緑色の目を瞬かせ、こちらを覗き込むように見つめてくる。

「十代さん、困ってます?」

哀しそうにこちらを見つめるブラック・マジシャン・ガールに狼狽える。

「いや…別に、困っては…ないかな、と」

そう言うとブラック・マジシャン・ガールは花が綻ぶように笑う。

「良かった!」

ブラック・マジシャン・ガールが再びぎゅうぎゅうと抱きついてくる。相変わらず腕に柔らかな感触と甘い匂いが自分を包んで体が固まる。
どうして良いか分からず助けを求めるよう視線を巡らせると今度は黒い色彩があふれた。

「いい加減にしないか」
「お師匠様!」

現われたのはブラック・マジシャン。遊戯さんのエースカードだ、心のなかでブラマジキター!と歓声をあげる。ブラック・マジシャン・ガールに対して厳しい眼差しを送り、見下ろすように空中に浮かんでいる。
ブラック・マジシャン・ガールは僅かに怯んだ様子で背に隠れるようにブラック・マジシャンを見上げた。

「でも…お師匠様、私は十代さんをぎゅーってしたいんです!」
「それはその方に迷惑だろう」

ブラック・マジシャンは肩をすくめ溜め息を吐く。そんな師匠の様子にブラック・マジシャン・ガールは拗ねたように頬を膨らませる。

「お師匠様だって十代さんをぎゅーってしたいんじゃないんですか?」
「なッ、何を馬鹿なことを…!」

ブラック・マジシャンが頬を赤く染め狼狽える。意外と人間らしい反応をするのに妙に感心しながらも、弟子であるブラック・マジシャン・ガールと言い合う姿に呆然と見ていた。

「ブラック・マジシャン、お前が狼狽えてどうする。ブラック・マジシャン・ガールも止めるんだ」

静かな声が響いて二人の言い合いが止まった。声のした方を見ればもう一人の遊戯さんが腕を組んで立っていた。

「もう一人の僕」

遊戯さんがゆっくり瞬いてもう一人の遊戯さんを見つめた。もう一人の遊戯さんは肩を竦めて苦笑を浮かべる。

「十代、すまなかったな」
「いえ!俺は大丈夫ですから」

深く頭を下げるもう一人の遊戯さんに慌てて手を振り制すとなるべく明るく笑みを浮かべる。気にしないでください、そう言うともう一人の遊戯さんは小さく微笑んだ。

「ありがとう、十代」

どこか艶やかな笑みを浮かべるもう一人の遊戯さんにどきりと心臓が乱れる。何でこんな、と混乱しているとごく自然に手を握られ顔中が熱くなっていく。

「もう一人の僕!」
「マスターずるいです!」

僅かに怒気を含む声で遊戯さんが呼び、ブラック・マジシャン・ガールがもう一人の遊戯さんとの間に割って入ってきた。
もう一人の遊戯さんと離されたかと思うといつの間にか傍にやってきた遊星に手を引かれまるで守られるように後ろへと押しやられる。ブラック・マジシャンも複雑そうな表情でもう一人の遊戯さんを見つめていた。
全員がもう一人の遊戯さんから庇うように立ちふさがるのを呆然と見つめる。

「私も十代さんが好きなんですから!マスターばっかりずるいです!」
「ブラック・マジシャン・ガールは抱きついてたろ?それだってずるいと思うぞ」
「二人ともずるいと思うよ、十代くんに触れたんだから…僕たちだって抱きつきたかったよ。ね、ブラック・マジシャン?」
「えっ、いえ…私は、そんなッ!」
「………」

睨み合う様に見つめ合うブラック・マジシャン・ガールともう一人の遊戯さん、遊戯さんの言葉に頬を赤くし慌てるブラック・マジシャンとその様子を冷ややかな目で見つめる遊星。
何故か険悪な雰囲気だ。 どうしたものかと考えているとぱっとブラック・マジシャン・ガールが目の前にやってきてこちらを覗き込むように見つめてくる。

「私十代さんが好きです!十代さんは?」
「へ?」

突然のブラック・マジシャンガールの言葉に間抜けな声がこぼれた。

「…十代さん、俺も貴方が好きです」
「なッ」

ブラック・マジシャン・ガールの告白に驚いて固まっていると遊星が真剣な声音で想いを告げる。
驚き過ぎて口をぱくぱくとさせるしか出来ず呆然と見つめていると二人の遊戯さんが割って入いるように傍へとやってきた。

「十代くん、僕は君のことが好きだ。他の誰にも負けないくらい」
「十代、俺も君のことが好きだ。もちろん相棒たちに譲る気はない」

二人の遊戯さんにまで告白され混乱しながら自然と足が一歩下がる。正直、この場から逃げ出したい。

「ッ…私も貴方が好きです、マスターたちにも負けません!」

今まで静かにしていたブラック・マジシャンまでも告白してきて頭が真っ白になる。
再び一歩下がる。
とにかく困惑した。
自分を取り囲む人物たちは真剣な眼差しで、自分の答えを待っている。

「(何で、こんなことに…?)」




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -