※ED3後



走る速度を徐々に緩め、そっと後ろを振り返る。そこには静かな廊下が続いていて、人の気配は今のところない。
ルカとデビトに促されるまま思わず逃げてしまったが、パーチェには悪いことをしてしまったかなと少し心が痛んだ。
別にパーチェと結婚するのが嫌なわけじゃない、寧ろ嬉しいくらい。
でもあんな風に結婚しようと言われても素直に頷けない。
幹部として冷静に振る舞ってはいるが、年頃の女の子と同じようにプロポーズには夢をみている。跪いて手を取って…とまではいかなくてもせめてもう少し雰囲気とか考えて欲しい。

「はぁ…」

周りを気にせず素直に想いを口にするパーチェには難しいかもしれない。まあそんなところも好きなので何とも言えないのだけれど。
深い溜め息を吐くと、後ろから慌ただしい足音が聞こえてくる。

「おっ嬢ー!」

きらきらと輝く笑顔でこちらに駆け寄る姿は飼い主を見つけた犬みたいで少し微笑ましい。ただ相手は大型犬並みに大きく力強い、下手すると怪我をしてしまうから要注意。

「お嬢、結婚しよう!」

にこにこと笑みを浮かべながら言うパーチェに再び溜め息がこぼれた。
するとパーチェは眉を下げ悲しそうな顔になる。

「俺と結婚するの嫌?」
「そんなことない!」

直ぐ様否定して真っ直ぐパーチェを見つめると安心したように息を吐き、良かったと笑う。

「パーチェと結婚するのは嫌じゃない、寧ろ…嬉しい、けどもう少し真面目にプロポーズして欲しい…なとか…」

何だか自分で言って恥ずかしくなってきて最後の方は消え入りそうな声になった。
ぽかんとしているパーチェにいたたまれなくなって慌てて手を振る。

「っごめん!忘れて!」

顔が真っ赤になってるのが分かる。とにかくこの場から離れたいと踵を返そうとした瞬間、左手をパーチェにとられた。

「え?」

今度はこちらがぽかんとする番。
パーチェは跪いて恭しくとり、にこりと微笑んだ。

「お嬢の望みなら俺がいくらだって叶えてあげるよ」

どきりと胸が高鳴った。
ゆっくりパーチェの顔が手に近付いて薬指にひとつ口付けた。

「フェリチータ、俺と結婚してください」

じっとこちらを見つめるパーチェに恥ずかしくなって、それでも目を逸らすことが出来なくて。

「っはい」

しっかり頷いて笑みを浮かべるとパーチェは心底嬉しそうに笑ってもう一度手の甲に口付けを落とした。

「パーチェ」
「ん、何?お嬢」
「離さないでね?」

パーチェの手をぎゅっと握ると握り返してくる。

「もちろん!離したりしないよ」

そう言って私を引き寄せぎゅうぎゅうと抱きしめる。
少し苦しかったけど、とても幸せな気持ちが胸を満たしてそっと目を閉じた。



END

title:ごめんねママ
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