「受け取ってください」

そう言って小さな箱を差し出すと、目の前の相手は琥珀色の瞳をまんまるにし、ゆると首を傾げた。

「何だコレ?」

予想道理の反応に内心苦笑しつつも、その様子が可愛らしいなと思うが表情には出さない。

「チョコレートです」

箱を受け取り色んな角度から眺める十代さんにそう言うとますます首を傾げる。

「何で俺にくれるんだ?」
「え、それは…その、」

純粋な好奇心できらきらした目でこちらを見つめる十代さんに今日がバレンタインデーだからですとは言えず、言葉に詰まる。

「…っ、お疲れじゃないかと思いまして、その…疲れた時には甘いものが良いと言いますし…それで、です」

何を言っているんだ、自分は。正直に貴方が好きだから今日チョコレートを渡しました、となぜ言えないのか。
自分の情けなさに腹が立ってくる、だがもし正直に気持ちを伝えて十代さんに拒絶されたらと思うとぞっとする。
それだけは耐えられない。

「んー…そっか、ありがとな」

にっこりと笑顔を浮かべて礼を言われると胸の奥が温かくなる。

「俺だけ貰ってばっかじゃ悪いし…何かお返しするぜ!」

たいした事出来ないけど、と苦笑しながら頬を掻く十代さんが可愛らしくて小さく笑みを浮かべる。

「…良いんですか?お返しいただいて」
「おう!もちろんだ」

明るい笑顔でそう言われ、僅かに思案しゆっくり口を開く。

「それじゃあ…今日一日付き合ってくれませんか?」

緊張しながら言うと、十代さんは目をぱちりと瞬かせ首を傾げた。

「良いけど…そんな事で良いのか?」

十代さんの問いかけにはい、と頷く。すると十代さんはぱっと明るく笑って手を取った。いきなりの事に驚いて固まってしまったがそんな状態もお構いなしに十代さんは顔を覗き込む。

「よし、じゃあ今日は遊星に付き合うぜ!」

満面の笑顔を向けられ、顔が熱くなっていくのが分かる。
嬉しさや驚きや緊張が混ざって言葉が詰まるが、何とか落ち着かせて握られた手を握り返した。

「ありがとうございます、十代さん」

笑みを浮かべれば、十代さんは嬉しそうに笑みを返してくれた。


Happy Valentine's Day



END



バレンタインネタ。

title:ARIA
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