※学パロ。



遊城十代さん。
明るく元気で、純粋にデュエルを愛し、とても尊敬出来る一年上の先輩だ。
そう思っているのは自分だけではなく、十代さんの周りにはよく人が集まっている。

「遊星!」

呼ばれて振り返れば十代さんが手を振っており、隣には留学生のヨハンさんがいた。

「デュエルやろうぜ!デュエル!」
「はい」

ひとつ頷けば十代さんは嬉しげに頬を赤く染め、きらきらと目を輝かせた。

「じゃあ、十代の次は俺とやろうぜ」
「あ、はい」
「そうと決まれば早くやろいぜ!」

ヨハンさんの言葉にもう一度頷くと十代さんは待ちきれないとばかりに手を引く。
危うくバランスを崩しそうになったが何とか持ちこたえ十代さんに引っ張られていく、同じように引っ張られるヨハンさんは楽しそうに笑っていた。
この二人といると特に楽しく、自然と笑みがこぼれた。




ふと十代さんに借りていた本があることに気付いた。借りて一週間は経ってしまっている。読み終わってはいるが返すのを忘れてしまっていた。

「(今なら寮か…)」

返すように催促はされていないが、いつまでも借りっぱなしにしておく訳にはいかない。
本を片手にレッド寮へと向かう。

「十代さん、遊星です、入ります」

程なく十代さんの部屋の前まで来ると、声をかけドアを開ける。

「十代さん、本を…かえし…に、」

目の前に広がる光景に思考が停止した。
ドアの向こうは十代さんの部屋、そこにいるのは十代さんだ。
十代さんは着替えの途中のようで、上半身が裸だ。
否、裸は語弊がある。ブラジャーを着けているから裸とは言えない。

「(ブラジャー…?)」

十代さんの胸には膨らみがありそれを覆っていて、身体のラインも細く括れている。

「(これじゃあ、女性の…)」

身体だ、と理解した途端大量の汗が噴き出た。
バクバクと心臓が忙しなく鳴っていて、顔中が熱くなる。

「あ、の……っすすいません!」

慌てて部屋から出て勢いよくドアを閉めると走ってその場から離れる。
心臓の音がうるさく耳に響いて、息をするのも苦しい。

「遊星?」

不意に声をかけられ足を止めると不思議そうにこちらを見つめるヨハンさんがいた。

「ヨハン、さん」
「どうしたんだ、そんなに慌てて?」

問われて一度口を開きかけ、止める。
もしかしたらさっきのは自分の見間違いかもしれないし、見間違いじゃなくてもさっきのことを他人に話して良いものか悩む。
だが誰かに話して落ち着きたかった。意を決してヨハンさんに聞いてみることにした。

「さっき、十代さんに本を返しにいったんです」

ヨハンさんは相槌をうちながら、それでと先を促す。

「その…着替えの途中だったみたいで…あの、その…」

ヨハンさんは僅かに首を傾げて俺の言葉を待つ。ひとつ深呼吸をすると口を開いた。

「十代さんに…胸があったんですっ」
「………」
「…ヨハンさん?」

何の反応のないヨハンさんにうかがうように顔を見つめると、目を瞬かせ首を傾げた。

「いやあるだろ、女の子なんだから」
「え?」

思わず間抜けな声が出た。さっきヨハンさんは何と言ったか。
女の子なんだから。

「っえぇぇ!?」
「うぉっ!びっくりした」

俺の叫び声に肩を揺らし驚くヨハンさんに慌ててすいませんと謝り、口を手で覆う。

「まあ、勘違いも分かるけどな、十代言動が男っぽいし…あ、でも女子だって隠してる訳じゃないんだぜ?だからあれが十代の素なんだよな」

にこやかに笑って言うヨハンさんに、曖昧な返事を返すと後ろから声がかかる。

「おーい!遊星!」

振り返ると十代さんがこちらへ向かっていて、びくりと肩が揺れた。

「用事、あったんだろ?いきなり出てったからびっくりしたぜ」

十代さんは目の前までやってくると苦笑混じりに笑う。
脈拍が再び速くなっていく。
よく見れば確かに女性っぽいところがある。緩くカールした長めの睫毛、細く白い首、薄いピンク色の唇。
よくよく考えれば確かに男っぽくない。
じっと見つめていると十代さんは首を傾げる。

「遊星?」

十代さんの唇が自分の名前を紡ぐ。
どくん、と心臓がひとつ乱れた。
こんな感覚は初めてでどうして良いか分からない。何だか十代さんの顔を見ているのが恥ずかしくなった。

「あの、っ…何でもありません!」

居たたまれなくて再びその場を走り去る。
後ろから十代さんが名前を呼んでいるのが聞こえたが立ち止まることは出来なかった。

「青春だなぁ」

しみじみとしたヨハンさんの声が聞こえた気がしたが気のせいだと自分に言い聞かせ、とにかく走った。



END

title:空をとぶ5つの方法
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