思えば自分勝手だと思う。音のない世界にサクラを閉じ込めて、聞こえない声を口にするサクラを自分の物にしたいとしたいと願ってしまった。空気が振動しなければサクラの唇が模る言葉は自分の都合のいいように解釈できる。


眉を寄せ、涙を流しながら何かを叫ぶ彼女。それが自分の名であることまでは望まないが、どうか叱咤でもないようにと祈る。自分勝手だ。この期に及んでまだサクラに愛されていたいだなんて。記憶の中なら素直になっても許されるだろうか。


きっと柔らかいであろうサクラの頬に少しずつサスケの手が伸びた。触れてみると思ったよりも冷たかった。すかさずサスケの手の甲にそれよりも冷たい掌が重なった。

そうしてやっと気づく。此処が夢ではないことに。サクラの顔がくしゃっと笑顔を作った。唇がまた開閉する。

――…サスケくん

その口が呼んだもの。

――…サスケくん

繰り返されて模るもの。間違いなく、己の名だった。


サスケの中で、何かが崩れる音がした。と同時に一瞬で世界に音が戻る。ざわざわとした空気の音。鳥の声。

「……」

霞む眼をしっかりと開けて、淡紅色に伸ばした手が夢でないことを確認したサスケはそのまま彼女の頭に手を回し、己の胸に引き寄せた。声を殺してサクラは泣いた。今度はしっかりとその音を捕えることができる。

安堵、悲しみ、不安、喜び。全てを感じるその泣き声。


――…ああこの世に、音があってよかった。




汚くて、冷たくて、儚い手の中に見たもの

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