※サスケ失明ネタ




自分の名を呼ぶその声だけで闇しか見えなかった視界に淡紅色が広がった。
声がする方向に手を差し伸べると触れたのは小さなものだった。
すがるようにきゅっと握り締め指先に頬をすりよせる彼女の行為が何よりも愛しかった。
ただ只管の黒の中で気配だけを頼りに手探りでサクラを探す。
やわらかいその輪郭に指を滑らせるとサクラは擽ったそうに小さくわらった。
サスケがぎこちない仕種で少女の髪に指を通した。
脳裏に思い描くのはあのころに何度も目にしてきた桜色。

「伸びたな」

小さな頭がこくんとひとつ頷いた。

「染めたんだよ、黒に」

その言葉に少し驚いたように彼の表情は伺えた。

「そうなのか」

あ、びっくりしてる。
サクラは悪戯に舌を出した。

「嘘だよ」

くすくすと微笑んだ。

「からかうな」

サスケの声はむっと険しいものに変わる。
でも半分は安堵の声音も顔を覗かせて。

「どんなことがあってもこの髪は色を変えないよ」

貴方の目で、私を見えていたことを証明するために。
あの頃の記憶を抱いていくために。

「目、閉じろ」

言われたとおりに閉ざした瞼に温もりがそっと灯った。
一度だけのやさしい行為。
吸い込まれそうな翡翠はこの中に眠っている。
白い肌を伝わって彼女を彩るパーツ、一つ一つを確認するかのように今度は一瞬鼻の頭に触れた。
柔らかな指はやがてその下方にあった口唇にあてがわれた。
ゆっくりとした動作に導かれるようにサクラの鼓動が早鐘を打つのを聞いた。
静かに己のそれと重なり次第に深く、絡まる。

「…んっ…」

甘い小さな吐息が彼女の口の端からもれた。
濡れた声だけがサクラの存在だけを伝える。
掌を満たす温もりは今まで誰よりも隣にいた。
まるで同情されているようで煩わしかった時、どんな奇麗事を並べても所詮は他人事だろうと繋いできた温かすぎる手を離した。
それでも、彼女は決して遠ざかりはしなかった。
幾度となくその残忍に振りほどいた手を握り返してくれた。
この目にはもうサクラの姿は映りやしないけど、それでも彼女に触れて思い出せる一つ一つを形にすればサクラはいつも微笑んでいた。



END.


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