※金魂。R18




みゃあと黒猫が鳴いた。
コツコツと足音が近くなる。
埃臭い廃墟の中。
錆びれた事務用机に漆黒の中華服に身を包んだ女が腰掛けていた。
くすんだ硝子窓の向こうには丸い月がぽっかりと浮かんでいる。
女は闇の空を見上げて不適に笑った。

「レディを待たすとはどういう神経してるアルか」

凛とした女の声は闇によく響く。

「悪ぃな。俺ァ紳士じゃないもんでねェ」

コツ。
黒い革靴を鳴らせて、男が姿を現した。
みゃあ。
女の膝の上で気持ち良さそうに寝転がっていた黒猫は一鳴きして身を翻す。
壊れ掛けたドアの入り口に立っていた総悟の傍をそのしなやかな体が擦り抜ける。

「飼い猫にまで嫌われたかィ」

長い尻尾をピンと立て堂々と闇に紛れた後ろ姿を眺め総悟が笑った。

「あれは野良猫ネ。満たされれば気ままに出ていってしまうんだヨ」

それが闇と契約せしものの掟。
誰にも属さず、懐いたと見せ掛けて嘲笑い裏切る。

「それより例のものは用意してくれたアルか」
「あんたも昨日の今日で無茶言いやがる」
「良く言うヨ。お前なら三秒もあれば手に入るだろう」

総悟が適わねぇな、と呟いて肩を竦めた。
一歩ずつ、神楽に近づく。
そして彼は背広の胸ポケットからごそごそと何かを取り出した。

「今日押収したばっかのやつでィ。てめぇは手出すなよ」
「わかってるヨ」

神楽の白くて細い指が受け取ったのは透明のビニル袋に入った白い粉塵。
月明かりに照らされて神秘的にさえ見えた。

「また厄介なのが巷に出回るなァ」

言葉の割に楽しそうに総悟は言った。

「本気でそう思ってんなら今ここで私を逮捕すればいいネ」
「それが出来ねぇことはあんたが一番知ってるはずでィ」

静かすぎる夜半。
淋しくて誰かを求めるのが人の性。

「じゃ俺ァこれで。せいぜい捕まらねぇように気を付けなァ」

あっけなく、神楽に背を向け総悟は闇に紛れようとする。
咄嗟に、愛しさが募った。
何のつもりだったのだろうか。

気がつけば、白く華奢な神楽の腕が総悟の背広を掴んだ。
彼との身長差を背伸びして縮める。
振り返った彼に、ぐっと顔を寄せ、その唇に軽く触れた。

「――…次はいつ、逢えるアルか」

総悟の胸に頭を寄せて、神楽が目を閉ざす。
今日だって薬が目当てなわけじゃなかった。
本当はただお前に逢いたかっただけ。
でもこうでもしなきゃ逢ってくれないでしょう。
そんな私の愚かな想いに貴方は気付いている癖に。

総悟は神楽の肩を掴んでそっと離した。
彼を見上げるその顔からは千を超える男達をまとめあげる女ボスの面影は消えていた。
ただ一人の男に愛されることを望む、憐れな女。
堪らなくなって総悟は神楽の頭を引き寄せてその口を塞いだ。

「――…んっ…!」

総悟の舌が神楽の口蓋を割って入った。
深く深く絡み合う。
唾液が顎を伝った。
神楽の口の端から吐息が漏れる。
総悟の服を掴む彼女の手に力が籠もる。
体が熱い。
この人は人を翻弄するのが上手い。
例え逃れたくともそれは許されなかった。
遠くで梟が唸っている。
ようやく神楽を解放した総悟が微かに笑った。

「てめぇから仕掛けてくるなんて、珍しいじゃねぇかィ。取引で他の男に抱かれでもしたか」
「そんなんじゃないヨ」

総悟が神楽の首筋に顔を埋めた。
彼の右手は深いスリットから太ももを滑る。
慣れた手つきの左手は黒い女の衣裳を器用に脱がした。
露になった神楽の白い肌。
誰もまだ踏み込んではいない雪のようで。
月が優艶に演出する。

この肌を淡紅色に染めることが出来るのはこの世でただ一人。

「…あ…っ…」

総悟の右手が神楽の女を弄った。

「声は上げねぇほうが身の為だぜィ。誰が潜伏してるかわかったもんじゃねェ」

そうは言うものの総悟の手は神楽を責め立てるのを止めやしない。
神楽が唇を噛み締めて彼によってもたらされる熱を必死に堪えようとする。
その艶美な姿が余計に総悟を呷った。
月夜に露になった豊かな乳房を愛撫する。
敏感な突起を指先で弄びながら、熱を孕んだ神楽の蜜部に総悟の指が抜き差しを繰り返した。

「…んっ…あ…っ!」

ビクンと神楽の身体が弓反りになる。
甘いその声に総悟の思考回路は確実に狂わされていく。
彼女の愛液に濡れた指を総悟は舌で拭って、不敵に笑った。

「そんな声上げやがって誰かに聞かれても知らねぇぞ」
「…っそれはお互い様ネ」

濡れた吐息を繰り返しながら、すっかり熱に翻弄されて潤んだ瞳がこちらを見つめた。

「警察庁のエリートがこんなところで犯罪者と情を通じてることがばれたら終わりアルな……っあ…!」

神楽の台詞は途中で途切れた。
総悟が彼女の濡れた箇所を舐めた。
神楽の中に舌を挿入する。

「…んっ…あっ…いやぁっ…」

静まり返った廃墟には総悟によって造られる濡れた音がぴちゃぴちゃとこだました。
恥ずかしさに真白い肌を首まで真っ赤にした神楽が顔を臥せた。
それでも高ぶる気持ち。
こんなにもこの人を求めている。

「てめぇが生意気な口利くからでィ」

神楽の手は我知らず総悟の服をきゅっと握り締めていた。
総悟を見る虚ろな瞳から涙が零れた。
いけないと知って愛した女。
抑えることが出来ない欲情。
突き動かされて、総悟は神楽の口を塞いだ。

「…っん…ふっ…」

下手な癖に神楽は自ら舌を絡めようとする。
その姿が壊したくなるほど愛おしい。
どこまでこいつは、俺を魅了せば気が済むのだろうか。
一度昂ぶった理性にもう歯止めが効かなかった。

「てめぇはただ黙って俺に抱かれてりゃいいんでィ」

神楽の右太股を持ち上げた。
何より神楽を欲す欲望を総悟は彼女にあてがった。
一気に神楽の奥を突き上げる。

「…っ…ああっ!」

神楽の身体が後ろに大きく仰け反った。
恐い程の熱が彼女の中に流れ込む。
総悟にしがみ付く腕に力が籠もった。

一度彼は優しく神楽に口付けた。
アンタは俺のもんだ。
月明かりを真っすぐに吸収する白い肌も、潤んだ瞳も、濡れた声も。
一つの不足なく酔わしてやる。

例え歩む道が違っていようとも逃れることは叶わない。

彼の腕の中で気を失った神楽を抱えなおして、その頭をそっと総悟は撫でた。

なんて憐れで、愚かで、麗しくて。
それでもただ一人の愛しい人。


真っ暗闇の中、妖しく総悟の口が笑った。


END.



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