もともと怠惰な人ではあったけれど、最近では更にそれが目立つようになった。顔を会わせる度に、めんどくせぇと呟かれると、流石の神楽も眉を寄せる。 「それ以外の言葉言えないのかヨ、お前」 「他に何を言えばいいんでィ。冗談じゃねェ、か?」 布団をすっぽりかぶったままの神楽を総悟が一瞥した。 「本当冗談じゃねぇよ」 絞り出すように、総悟は呟いた。 彼女の病は特異稀な病。 治療や薬など、この世にあるはずがない。 ただ緩やかに、訪れる死を待つだけだった。 「別にお前のせいじゃないヨ、自惚れんな」 憎らしいほど真っ白な布団から、怖いほど白い手を伸ばし、それを彼の手に重ねては相変わらずの憎まれ口を叩く。 俺のせいじゃないのだとしたら、この理不尽な怒りを何処にやればいいというのだ。 あんたに恋を与えたのは俺だ。 そして、あんたを女にしたのも俺だけだ。 なら、あんたを蝕むその恋を知れば死ぬ病は俺以外の誰が発症させたという。 あんたに恋をし、俺は少なからず幸せを感じていたのだ。 その幸せを打ち砕いたのも俺自身だと、せめてそう言うことにしていてほしい。 でなければ、報われない。 「なんでそんな顔に似合わず柔なんだよ、てめぇは」 総悟の手を包み込む小さな掌を握り返して、ため息をついた。 こんなくだらない男になど惚れなければ、あんたは死なずにすんだのに。 そうだとも、俺に惚れるなと突き放せそうにない俺は、何処まで浅ましいのだろう。 「幸せだと思うネ、私は」 この短い人生で、お前に心を捧げたことを後悔しない。 蝉が鳴く。 短い人生を猛々しく謳う蝉。 この夏が終われば、恐らく私はもう此処に存在していないのだろうけれど。 神楽が蒼い双眸で、総悟を見やる。 逆光が彼の顔を隠した。 「好きヨ」 徐に言葉にした。 何より苦しくて泣きたくなるほど嬉しい呪文。 「冗談じゃねぇ」 好きなら何故、お前は死ぬのだ。 否。 好きだからお前は死ぬのか。 まだこの悲しみは受け止められそうにないけれど。 END. |